情炎の焔~危険な戦国軍師~
「左近。陣地に来てまで女を泣かせてるのか?」


「おや、殿」


「友衣はなぜそんな悲しそうな顔をしている?」


「だって左近様がもし戦で討たれたら、俺を踏み台にしてでも家康殿を討ち取れって」


私は正直に言った。


「いつも余裕の左近が、らしくないことを言うのだな」


三成様は驚いたようにまばたきする。


「俺のすべてを賭して戦に臨む。それだけですよ」


左近様だけが唯一、いつも通りの表情だ。


「殿は俺を誰よりも高く評価して下さった。しかし、勝利のために練った作戦をみな却下なさったのもやはり殿だった」


そのストレートな物言いに、三成様は黙って肩をすくめる。


「だが、俺自身が決めた道です」


「左近、お前は」


「そしてあなたと主従の契りを交わした以上、あなたのために全力で戦うつもりですよ。たとえ何があろうと、ね」


そう断言して微笑する横顔は、いつもよりさらに何十倍も頼もしく見えた。


「左近様…」


「ここで」


左近様は微笑して続ける。


「関ヶ原で家康と対峙し、そして勝ってみせる」


「…」


その力強い言葉にしっかりと頷いてみせた。


そして私も弱気になっていられないなと改めて思い、キッと夜空を見上げる。


雨はいつのまにか止んでいた。
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