情炎の焔~危険な戦国軍師~
第34戦 運命の関ヶ原
結局、それほど眠れないままに朝を迎えた。


辺りには煙のような濃霧が立ち込めている。


あの文章の消えた歴史小説でも、やはり朝の天気は霧だった。


だが、今こそ内容を書き換える時。


私は太刀の柄を握る。


三成様だって左近様だって、あと何年後も生きていなきゃいけないんだから!


ズドン


ズドン


「!?」



ふいに銃声が真っ白な世界にこだまする。


「ついに先鋒同士がぶつかったか?」


近くにいた平助さんが呟く。


とうとう…戦いの時が来たんだ。


三成様のいるはずの場所にそっと近寄ると、彼はのろしを上げさせていた。


南宮山の味方に向けてのものらしい。


あれ、南宮山といえば吉川隊がいる場所じゃなかったっけ?


「広家殿に聞いてみたら、笑ったり曖昧な態度を取ったりではぐらかされた」


軍議の相談の時、三成様はそう言っていたはずだ。


すぐに三成様に話しかける。


「三成様、吉川隊は頼りにしない方が」


「なぜだ?」


「あの人は何を考えているんだかわからないって言ってたじゃないですか」


「確かに言った。だが、かの者には亡き太閤殿下のご恩があるはずだ」


「なにも恩で動くとは限らないじゃないですか。誰もが皆、三成様のように恩で動いているわけではないんですから」


しかし、この言葉が癪(しゃく)にさわったのだろう、三成様はそれ以上口を聞いてくれなかった。


ため息をつきながら風に翻る旗差し物を見る。


大一大万大吉。


今一度、胸の中でその言葉を反芻する。


「この言葉が、私達の目指すところなんだ」


私は疾風にまたがり、急いで左近様のところへ向かった。


いつのまにか霧は流れ始めていた。
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