情炎の焔~危険な戦国軍師~
-サイド左近-


「来たな」


霧が晴れ始め、敵の軍勢がうっすらと見えた。


待っていましたとばかりに井伊直政隊が、こちらにせわしなく銃弾を浴びせて来る。


福島正則隊はそれを見て、宇喜多隊に撃ちかかる。


やはり正則殿は殿を討つ気なのか。


引き裂かれた友情はもう元通りにならないのか。


いや、感傷にひたっている場合ではない。


戦の開幕だ。


「行くぞ。敵が撃って来ても十分に引き付けてからでないと撃ってはならん!」


西軍の柵に伏せている銃兵達にそう命じる。


それからちらっと背後にいる騎馬隊に目をやった。


屈強な男共の中に1人だけ、女の顔がある。


たとえ俺の命がここで散ろうとも、あの花だけは絶対に散らすまい。


そう思っている間にも、銃声は絶え間なく響く。


やがて敵の銃兵が放つ弾が味方に届くようになって来た。


「ひるむな!」


そして味方の銃兵が一斉に撃ち、敵が伏せた瞬間。


「今だ、かかれ!」


ついに突撃を命じた。


ウオオオォォーッ


威声が耳を裂くほどに辺りに響き、敵も味方もわからないほどに人馬が入り乱れる。


だが、しばらくすると敵がじわじわと後退していることに気付いた。


このまま押していけばこの厚い壁を突破出来、さらには家康の本陣に近付けるかもしれない。


すると、横合いから敵の銃弾が雨よりもひどく乱れ飛んで来る。


「ちっ」


それでも立ち止まってはいられない。


この銃兵共さえ蹴散らせれば何とか状況は変えられるはずだ。


「止まるな!銃兵を蹴散らせ!」


しかし次の瞬間。


バァン!!


「!」


ふいに左腕に斬られたような鋭い激痛が走った。


しまった。


撃たれたか…。
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