情炎の焔~危険な戦国軍師~
気付くと周りに敵が集まっていた。


ショックでわなわなと震えながらも、私は彼らをキッと睨む。


「あなた達に私を殺させはしない。私の命は三成様のもの、私を信じてくれた仲間達のもの。そして、私を愛してくれた人のもの」


そう言って右手首に左近様にもらった懐刀を突き付け、迷わず引いた。


ザシュッ


血が飛び散り、流れ出した。


斬られるよりも鋭く、感じたことのない、焼けるような痛みが私を襲う。


それに耐えながら、固く目を閉じた左近様を見る。


あなたのいない世界なんて、私にとっては無価値。


そう思っている間にも血はどんどん流れ出、頭にもやがかかったようになる。


いつのまにか地面には、私の手首から流れる血と左近様の腹部から流れる血が交わり、1つの深紅の川が作られていた。


(ああ…)


痛みより眠気が襲ってきた。


私は左近様の隣へあお向けに倒れ込み、左手で彼の右手をそっと握る。


頭の中を、この世界で繰り広げた数々の思い出が走馬灯のように目まぐるしく駆けめぐっていく。


出逢った睦月。


雪になりたいと願った如月。


想いを募らせた弥生。


甘言に翻弄された卯月。


デートした皐月。


嫉妬した水無月。


初陣前夜に元気付けられた文月。


結ばれた葉月。


「友衣さん!」


最後に浮かんだのは、彼の満開の花のような笑顔と明るく弾んだ声。


そして、三成様から私に、私から左近様に渡っていったあのお香の淡く煽情的な匂いと、抱きしめられた時の温かさだった。


ああ、あの人が呼んでいるんだ。


「左近様。今、行きます…」


そして私は意識をゆっくりと手放した。
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