情炎の焔~危険な戦国軍師~
それから数日後。


「いや、しかし関ヶ原の戦いでは皆、良くやってくれた」


東軍の将、黒田長政は居並ぶ家臣達にそう言った。


「はっ」


家臣達はかしこまり、他の将達は頷く。


「それにしてもあの治部少輔(三成)の先鋒、島左近の戦いぶりは恐ろしいものであったな。まるで荒れ狂う獅子、いや、もののけのようだった。わしは今でもあの者の夢を見てうなされる」


「まったくだ」


将の1人が長政の言葉に相槌を打った。


「あの者や彼の臣下はまるで発狂しかねんばかりの鬼の形相で我らに向かってきた」


そんな将の言葉に長政は追随するように言う。


「それでありながら、彼らが見ていたのはわしなぞではない。殿(家康)ただ1人だった。わしはあの者のそんな凄絶な意志が恐ろしかった。だからあの日、あの者を討ち取るべく銃撃隊を編成し、鉄砲を撃たせた。これはそんなわしに対するあの者の祟りなのかもしれぬな」


別の将が神妙な顔で頷くのを見て、彼はなおも続ける。


「島左近…恐ろしいが、惜しい人物をなくしたものよ」


一同は得体の知れない虚しさを感じてため息をつく。


彼らは左近のあまりの恐ろしさに彼の服装を思い出せず、それなのに手下の者が覚えていたことを恥じた。


それは朱色の角のような前立ての付いた兜、黒塗りの籠手、浅葱色の陣羽織だったと伝えられている。


また、関ヶ原での左近の鬼と化した姿は、夢となって後々何年も長政達を苦しめた。


そして、その恐怖が民衆にまで伝染したのだろうか、京の町ではしばらく左近の目撃情報が絶えなかったという。
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