情炎の焔~危険な戦国軍師~
「三成様は無事に逃げられたでしょうか」


ふと、脳裏に三成様のことがよぎったので気がかりになり、呟いた。


「そうだといいんですがね」


左近様も不安そうだ。


「ところで友衣さん」


「はい」


彼の視線は私の右手首に注がれている。


「傷が手首の内側にあるってことはまさかあんた、自分で?」


「あっ」


後の祭りとわかっていながらとっさに右手を隠してしまう。


「どうしてそんな…」


悲痛なその顔がつらい。


「左近様のいない世界なんていらないからです」


「俺はたとえ自分が死のうとも、あんただけは生きてほしいと思ってます」


「でも嫌です。左近様がこの世からいなくなって、私だけは平気で生きおおせるなんてそんなの…」


子供みたいだと自覚しているけれど、本心を隠すことは出来なかった。


呆れられちゃうかな。


そう思ったが、左近様は穏やかな声で言った。


「やはり俺は幸せ者だ。今まで女からこれほどまでに深い愛をもらったことなんてなかった」


見ると、その顔はそっと微笑している。


「ですが、もう自分で自分の命を絶とうとするのはやめて下さいね」


「左近様…」


「俺をそれほど想ってくれるなら、俺の願い、聞き入れて下さい。俺はあんたに生きていてほしいんです」


どんな時も、刀より真っすぐな言葉をこの人はくれる。


左近様、私もあなたに愛してもらえて幸せです。


そしてきっと、三成様も左近様のような家臣に出会えて幸せなんだろうと思った。


彼が思いつめた感情を隠していることにしばらく気付きもしないで。
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