情炎の焔~危険な戦国軍師~
その後も語らっていると、左近様はふいに呟いた。
「それにしても、かすっただけの傷もあるとはいえ、銃弾3発食らっても生きてるとはね。運だけはいいみたいです」
彼はまるで自嘲するかのような口ぶりだ。
「フッ。この憂き世界でずるずると生き延びちまいましたものですな。主も満足に守れないで」
私はこの時になって、ようやく左近様の胸の奥の方に隠されていた思いに気付くのであった。
守りたかった三成様を置いて早々と凶弾に倒れ、主の生死もわからないでいる状況なのに、自分はこうして生きていることに負い目を感じているのだろう。
でも、そんなことを言うなんて。
悲しくなった私は思わず彼を遮って言った。
「そういうこと言わないで下さい。私、あなたが生きていて本当に良かったと思ってるんですから」
つい、むきになって言うと左近様は一瞬ハッとした顔を見せた後、ふわりと表情をほころばせた。
「そう言ってくれるのなら、生き延びた甲斐もあったかな」
「そうですよ。左近様は私に生きていてほしいって言ったじゃないですか。私だって同じ気持ちなんですからね」
「すみません。俺のことでこんなにも真剣になってくれる人がいるっていうのに」
なだめるように頭に手が乗せられる。
(温かい…)
髪越しに感じる彼の手の温もりに、ざわめいた心が落ち着いていく。
「やはり俺には、あんたを置いていくことなど出来なかったということでしょうな」
「私もきっとそうです。人生で一番傷を負ったのにこうして生きてる」
「それに、嘘でもどさくさに紛れて言ったのでもないですから」
「何がですか?」
「愛してるって」
そう言って左近様は気恥ずかしそうにパッと手を離し、横を向いてしまった。
「私だって嘘で言ったんじゃないですから」
「何がですか?」
「左近様が雪の日に、嫁に…」
そこまで言って私は墓穴を掘ったことに気付き、慌てて口をつぐんだ。
「嫁?」
「いや、忘れて下さい」
「なぜです」
「なんででもです」
「意味がわかりませんよ」
おかしそうに笑う彼を見て、私もつられて笑った。
「それにしても、あんたが俺の嫁ですか。いい話ですね」
「えっ」
「だが、今の俺には無理です」
彼はまるで花がしおれるみたいに悲しげに目を伏せる。
「そんな。どうしてですか」
「敗者の身となった今、俺には地位も金もない」
「私は地位もお金もいりません」
あなたがいればそれでいい。
「だが、あんたにつらい思いはさせたくない。幸せにしてやれる保証もないのに、そんな簡単に嫁にだなんて無責任なこと、出来ませんよ」
「私は左近様がいてくれればいいんです。ですから、幸せにしなきゃとか無理して考える必要はありません」
失いかけてそのことに気付いたんだ。
好きな人が隣にいることは当然のことじゃない。
存在してくれるだけでありがたいことであり、幸せなことなんだって。
そして私は左近様の右手を取ってすがりつく。
「もうこれ以上、私のことで悲しい顔、しないで下さい」
「友衣さん…」
「私は左近様といられることが幸せなんです。左近様はどう思ってるんですか?地位やお金が一番の幸せですか?」
「たとえ地位や金を失っても」
彼はそっと手を握り返してきた。
「あんたは失いたくない」
「左近様…」
「友衣さん。たとえ俺達が敗者だとしても、殿や皆でまた暮らせる日がきっと来ますよね」
「はい、きっと」
「だからその時は…」
その先は言われなくても、もうわかっている。
「一緒になりましょう。本当の意味で」
左近様の言葉に、私は微笑んでゆっくりと頷いた。
「それにしても、かすっただけの傷もあるとはいえ、銃弾3発食らっても生きてるとはね。運だけはいいみたいです」
彼はまるで自嘲するかのような口ぶりだ。
「フッ。この憂き世界でずるずると生き延びちまいましたものですな。主も満足に守れないで」
私はこの時になって、ようやく左近様の胸の奥の方に隠されていた思いに気付くのであった。
守りたかった三成様を置いて早々と凶弾に倒れ、主の生死もわからないでいる状況なのに、自分はこうして生きていることに負い目を感じているのだろう。
でも、そんなことを言うなんて。
悲しくなった私は思わず彼を遮って言った。
「そういうこと言わないで下さい。私、あなたが生きていて本当に良かったと思ってるんですから」
つい、むきになって言うと左近様は一瞬ハッとした顔を見せた後、ふわりと表情をほころばせた。
「そう言ってくれるのなら、生き延びた甲斐もあったかな」
「そうですよ。左近様は私に生きていてほしいって言ったじゃないですか。私だって同じ気持ちなんですからね」
「すみません。俺のことでこんなにも真剣になってくれる人がいるっていうのに」
なだめるように頭に手が乗せられる。
(温かい…)
髪越しに感じる彼の手の温もりに、ざわめいた心が落ち着いていく。
「やはり俺には、あんたを置いていくことなど出来なかったということでしょうな」
「私もきっとそうです。人生で一番傷を負ったのにこうして生きてる」
「それに、嘘でもどさくさに紛れて言ったのでもないですから」
「何がですか?」
「愛してるって」
そう言って左近様は気恥ずかしそうにパッと手を離し、横を向いてしまった。
「私だって嘘で言ったんじゃないですから」
「何がですか?」
「左近様が雪の日に、嫁に…」
そこまで言って私は墓穴を掘ったことに気付き、慌てて口をつぐんだ。
「嫁?」
「いや、忘れて下さい」
「なぜです」
「なんででもです」
「意味がわかりませんよ」
おかしそうに笑う彼を見て、私もつられて笑った。
「それにしても、あんたが俺の嫁ですか。いい話ですね」
「えっ」
「だが、今の俺には無理です」
彼はまるで花がしおれるみたいに悲しげに目を伏せる。
「そんな。どうしてですか」
「敗者の身となった今、俺には地位も金もない」
「私は地位もお金もいりません」
あなたがいればそれでいい。
「だが、あんたにつらい思いはさせたくない。幸せにしてやれる保証もないのに、そんな簡単に嫁にだなんて無責任なこと、出来ませんよ」
「私は左近様がいてくれればいいんです。ですから、幸せにしなきゃとか無理して考える必要はありません」
失いかけてそのことに気付いたんだ。
好きな人が隣にいることは当然のことじゃない。
存在してくれるだけでありがたいことであり、幸せなことなんだって。
そして私は左近様の右手を取ってすがりつく。
「もうこれ以上、私のことで悲しい顔、しないで下さい」
「友衣さん…」
「私は左近様といられることが幸せなんです。左近様はどう思ってるんですか?地位やお金が一番の幸せですか?」
「たとえ地位や金を失っても」
彼はそっと手を握り返してきた。
「あんたは失いたくない」
「左近様…」
「友衣さん。たとえ俺達が敗者だとしても、殿や皆でまた暮らせる日がきっと来ますよね」
「はい、きっと」
「だからその時は…」
その先は言われなくても、もうわかっている。
「一緒になりましょう。本当の意味で」
左近様の言葉に、私は微笑んでゆっくりと頷いた。