情炎の焔~危険な戦国軍師~
-サイド左近-


「っく…」


半蔵の腕から血が滴り落ちる。


カシャン。


鎖鎌も落ちた。


その隙に彼女は半蔵から逃れ、殿の元に駆け寄る。


「なぜ…?」


半蔵が殿や彼女と真逆の方、つまり俺を見た。


あえて姿を見せないようにし、殺気を消してこっそり半蔵達の背後に回って正解だった。


「悪いが背後を取らせてもらった。このお嬢さんを連れて行かせるわけにはいかないんでね」


「バカな。この私がそんな不覚な…」


「さて、どうする。3対1では勝ち目がないだろう?」


殿が半蔵に手元の刀よりも鋭い視線を向ける。


「仕方ない。ここは引く」


そう言って半蔵は真上に飛び上がったと思うと、もう姿を消していた。


「三成様、左近様。助けて頂きありがとうございました」


彼女は丁寧に頭を下げたが、まだ声が震えている。


「ふん。バカはどこまでも手間をかけさせるのだな」


殿は相も変わらず憎まれ口を叩くが、安堵の色がその端正な横顔に表れていた。


「あんたが無事で良かったです」


俺が言うと彼女は俯いてしまう。


まだ昨日のことで避けているのかと思ったが、違った。


小さな肩が小刻みに揺れている。


まさかと思って彼女と視線を合わせようと少し屈むと、顔を横に向けてしまった。


「見ちゃ嫌です」


涙声になっている。


「怖かったんですね」


そう優しく言うと、彼女の緊張の糸が切れたらしい。


大きな瞳から透明な雫がぽたぽた落ちてきた。


なだめるように、俺は正面から小さな背中に右手を伸ばしてぽんぽんと叩いてやる。


「ごめんなさい、ごめんなさい…」


まるでうわごとのようにごめんなさいを繰り返しながら泣く彼女。


「もう俺達がいるから大丈夫ですよ。だから心配しないで」


俺はもう片方の手で頭を撫でた。


彼女が泣き止むまでずっとそうしていた。
< 26 / 463 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop