情炎の焔~危険な戦国軍師~
-サイド三成-


「はぁ、はぁ…」


頼りない息切れが絶え間なくこぼれる。


もう何日も険しい山道を進み続け、体は限界を超えていた。


しかし、ここで死んだら永遠に家康を屠(ほふ)ることが出来なくなってしまう。


追っ手に見つからないように、なんとか遠回りして佐和山城に行き、態勢を整えねば。


その思い、いや、執念だけがオレの体を突き動かしていた。


「ふうぅっ…」


ふいに腹部が締め付けられるような痛みに襲われる。


戦の前日から続いている腹痛はまだ治らない。


「っ、ああっ…!」


気絶するような痛みに声がもれたその時、ふっと体から力が抜けた。


そのままぱたりと地面に倒れてしまう。


オレはここで死んではいけない。


生きなくてはならなぬのだ。


しかし、意志に反して体は言うことを聞かない。


まるで首から下が人形になってしまったかのように。


いつのまにか腹は痛みを通り越して、眠気さえ覚えている。


「殿」


「三成様」


オレを支えてくれた者達の声が遠くから聞こえる。


しかし無論それは空耳で、彼らはどこにもいない。


「左近、友衣…」


名前を呟いた時。


「三成様ーっ」


また友衣の声がした。


「三成様ーっ」


「友衣…」


なんといい夢だろう。


幻のように蹄の音と共に聞こえるその声に、思わず口元をほころばせていた。


そしてそのままオレは気を失った。
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