情炎の焔~危険な戦国軍師~
その後、オレは大津城前で晒し者にされた。


家康に味方した者達が睨んで来たり、罵倒して来たりするが、黙っていた。


お前達のような者にオレの義など到底理解出来まい。


秀吉様への恩義を忘れ、あの狸の腹が立つほど巧妙な口車に乗せられた愚か者達に、何がわかるというのだ。


「ふん、だから言わんこっちゃない」


ふいに地面が響くような太い声がした。


正則だった。


「言っただろう?家康にボコボコにされても知らねえって」


「別にあいつにボコボコにされたわけではない」


「細かいこと気にしやがって。相変わらず面倒な奴だな」


正則は心底呆れているようだ。


「正則が気にしなさすぎなんだろう」


何か言われると思ったが、飛んできた言葉は意外なものだった。


「どうしてだ?」


「?」


「どうして無謀なことをした?おとなしく家康に味方すれば、こんなことにはならなかったはずだぞ」


「言わなかったか?あいつに味方するくらいなら死んだ方がましだ」


「三成、お前はそんなに義とやらが大事か?」


「ならばお前は秀吉様から頂いた恩を忘れたか?」


すると正則は首を横に激しく振った。


「違う!秀吉様は昔からずいぶんと俺達を可愛がり、大切にして下さった。あの方のおかげで俺はここまでの大名になれたと思ってる。だが」


「だが?」


「あの方が亡くなられた今、俺達より権力のあるのは家康だ」


「それが気に入らぬ。なぜ秀頼様を差し置いて」


だんだん腹が立ってきた。


「俺よりずっと頭の良いお前ならわかってるだろう?秀吉様の命令をことごとく破って今も平然と生きている。それはつまりそれほどの権力があるってことだ」


―「先程家康の悪事を披露なさいましたね。あそこまでご存知ならなぜ?あれらの横柄な行いはつまりそれだけ家康が権力を持っているということですよ」―


いつか左近から聞いた言葉を思い出す。


そう、わかっていた。


だが。


「認められぬ」


オレの言葉に正則はため息をついた。


「俺だって特に恩のない徳川よりも、豊臣の天下を望んでる。家康はそれを知ってか、関ヶ原の戦いが終わったら豊臣の世にしてやると言っていた。俺はそれを信じた」


「あいつを信用するなど、バカ極まりないな」


「だが、もしそれが本当なら秀頼様が上に立たれるわけだから、お前だって助かるかもしれない」


「甘いな」


「三成、俺はただ、また清正と3人で…」


そしていきなり手がオレの体を縛る縄に伸びてきた。


正則、まさかお前…。
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