情炎の焔~危険な戦国軍師~
数十分後、私は小助くんに連れられて六条河原にやって来た。


すでに人だかりが出来ている。


「ちょっとすいません」


人混みをかき分けながら前へ前へと進む。


(三成様!)


小西行長様や安国寺恵瓊様と共に座らされている三成様の姿を見つけ、私は思わず駆け寄った。


慶長5年10月1日の六条河原。


史実通りなら、これから三成様達は処刑されてしまう!


「待て!」


警手の殺気立った鋭い声と共に首筋に刀が突き付けられる。


「お前もこいつらの仲間か」


「それは…」


すると涼やかな声が私を遮った。


「そんな女、知らぬな」


見ると三成様が氷柱よりも冷たく鋭い目でこちらを睨んでいた。


「そのバカを追い出してくれないか」


「三…」


私が呼ぼうとすると三成様はますます鋭く叫ぶ。


「そこの野次馬が目障りだと言っているだろう。警手、早くしろ!」


「わ、わかった。ほら、早く下がれ」


警手に人混みの中に押し込まれてしまった。


三成様、どうして…?


そんな私の思いなど知るはずもない彼は冷静に言う。


「警手、すまぬが喉が渇いた。水をくれないか」


三成様の言葉に警手は首を横に振る。


「悪いが水はない。干し柿ならあるが食べるか?」


「柿は体が冷えるからいらぬ」


「ふん。これから死ぬという奴がそのようなことを気にしてどうするのだ」


警手は鼻で笑ったが、三成様は毅然とした態度だ。


「オレの命はオレのもの。オレと共に歩んでくれた奴らのもの。どうするかは自分自身で決めることだ」


そう言い切る姿はまさに凛然という言葉がぴったりだ。


薄汚れた薄っぺらい服を着て、髪は落武者のように乱れているが、私は何よりも気高く、美しいと思った。


「…おとなしくしていろ」


刀を構える音がした。


私の頭の中に三成様との思い出が駆け巡る。


颯爽と馬に乗って現れた三成様との出会い。


佐和山城での様々な出来事。


石田邸での会話。


共に駆けた戦場。


ダメ。


死なせない。


死なせてたまるか!


再び三成様の元へ駆け寄ろうと足を一歩出しかけた瞬間、ふいに彼と目が合った。


一瞬だけ彼が微笑んだように見えた。


そして。


「はっ」


直後、警手の手によって刀が振り落ろされた…。
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