情炎の焔~危険な戦国軍師~
-サイド三成-


関ヶ原から逃亡したオレは近江で捕らえられた。


そして大津城前で晒された後、行長殿や恵瓊殿と一緒に洛中を車で引き回された挙げ句、六条河原の処刑場に連れて来られた。


悔しい。


オレは不義を成敗したかった。


なのに、逆にこのザマだ。


負傷しながら戦場に消えていった左近。


悔いはないと言って死地へ駆けていった友衣。


凄絶な覚悟を持って臨んだ戦のはずなのに、大切な人を失うつらさが身に応える。


その時、にわかに人混みが騒がしくなった。


「ちょっとすいません」


この声、まさか…。


(友衣!)


「待て!」


警手が現れた友衣に刀を突き付ける。


「お前もこいつらの仲間か」


「それは…」


まったく、何しに来た。


バカはどこまでもバカだな。


「そんな女、知らぬな」


あえて冷たく言い放つ。


「そのバカを追い出してくれないか」


「三…」


こいつ、本当にバカだ。


三成「様」と呼んでしまったら仲間だとわかってしまうだろうが。


「そこの野次馬が目障りだと言っているだろう。警手、早くしろ!」


彼女の声を遮るようにオレはひときわ大きな声で叫んだ。


彼女が仲間だと気付かれないようにするためにはこうするしかない。


「わ、わかった。ほら、早く下がれ」


「警手、すまぬが喉が渇いた。水をくれないか」


警手の目を友衣から自分に逸らさせるために、すかさず話しかける。


「悪いが水はない。干し柿ならあるが食べるか?」


「柿は体が冷えるからいらぬ」


「これから死ぬという奴がそのようなことを気にしてどうするのだ」


警手のバカにしたような態度にもひるまない。


「オレの命はオレのもの。オレと共に歩んでくれた奴らのもの。どうするかは自分自身で決めることだ」


「…おとなしくしていろ」


オレの頭の中に、これまで出会った人々の顔が浮かんでは消えていく。


(清正や正則、吉継、兼続、幸村、華…オレを信じてくれたのに、このようなことになってすまない)


(秀頼様、淀の方様。どうかご無事で)


(秀吉様、左近。今、そちらに行く)


(そして友衣。お前に今までさんざん嫌味を言ってきた非礼を許してくれ。本当は、オレはお前のことを…)


友衣と目が合った。


(達者でな。友衣)


せめてお前だけでもどうかこの先も生きて…。


「はっ」


オレの思いを遮るように警手の声がした。


---…


--…


-…
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