情炎の焔~危険な戦国軍師~
-回想-


慶長4年4月。


徳川家の侍女として働いていた華はある日突然、家康に呼ばれた。


「華よ。実はそなたに頼みがあるのだ」


家康は真剣な面持ちで言う。


「はい」


畏まりながらも華は声をしぼり出す。


「三成の屋敷へ行ってくれぬか」


「!?」


彼女が驚いて顔を上げると、家康は無理もない、というようにゆっくり話し始めた。


「あの者はわしのことを嫌いなようでな。どんなにこちらが歩み寄ろうとしても決して心を開いてはくれぬ」


「…」


「もしかしたら近々、わしに戦を挑んで来るかもしれない」


「戦でございますか?!」


「ああ。そこでそなたは間者となり、三成の動向を知らせてほしいのだ」


一侍女でしかない華は家康の命令には背けない。


頷くしかなかった。


「かしこまりました。しかし、なぜ私が?」


「なに」


家康はスッと目を細める。


「そなたは幼少の頃、半蔵に忍術を教えてもらっていたであろう?」


そういえば何も知らなかった幼少時代、なぜかひどく冷たい目をした半蔵を追いかけ回しては


「お兄ちゃん、それどうやるの?私にも教えて!」


そう言って忍術を教えてくれるようせがんだな、と華は思った。


家康は更に言う。


「そして、そなたの器量と才覚を見込んだ。それだけのことよ」


そして話は終わりだとばかりに立ち上がって行ってしまった。


こうして華は間者ということを隠しつつ、淀君に近しい家康派の将の協力を得て三成に近付き、侍女になったのであった。
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