情炎の焔~危険な戦国軍師~
第42戦 不器用な遺志
ある夜、私がお寺の入口に立って空を見上げていると、ふいに弦楽器の音がした。


「?」


法春さんが奏でているのだろうか。


その音色に惹かれるように私はお寺の中へ入っていく。


「あ」


左近様が部屋で月を見ながら琵琶を奏でていた。


「おや」


私に気付いた彼は演奏する手を止めて微笑んでくれる。


「左近様、その琵琶は?」


「法春さんのものです。昔ちょっといじったことがあったんで、懐かしくなって借りちまいました」


「お上手ですね」


すると左近様は自嘲するようにハッと笑った。


「まだまだです。殿には下手だと言われましたよ」


「そうなんですか?」


「10年以上前の話ですがね。あの方は本当に琵琶がお上手だった」


「知らなかったです。聴きたかったなあ」


「ええ。聴かせたかったですよ」


左近様はそう寂しそうに笑う。


私は彼の横に行き、座って言った。
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