情炎の焔~危険な戦国軍師~
「実は私、雪になりたいと思ったことがあったんです」


佐和山城にいた頃のことを思い出し、私は唐突にそう言った。


「雪に?なぜです?」


「左近様に愛されないのなら、雪になって溶けて消えてしまいたいと思ってたんです」


「いけませんよ。そんな悲しいことを考えては」


左近様は少し沈んだ表情でゆるゆると首を横に振る。


「左近様…」


「ほら、そんな顔をしないで下さい」


優しく包まれてしまうような穏やかな笑顔を見せてくれる。


「もしあんたが雪になってしまったら、その時はゆっくり温めて溶かしてあげます。その心さえも」


壊れ物を扱うようにそっと抱き寄せられる。


そして慈しむように口づけられた。


文字通り溶かされてしまうほどに甘いそれは、愛に溢れていると強く感じた。


「こんな風に、ね」


「もう…」


恥ずかしがると知って平気でするんだから。


嫌じゃないのについすねてみせてしまう。


するとふいにこつん、と額と額がぶつかる。


「悲しい顔されるより、怒った顔される方がよっぽどいいですよ…」


真剣で切なげな表情の彼に私は何も言えなかった。
< 316 / 463 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop