情炎の焔~危険な戦国軍師~
「あの、左近様」


笑ってほしいのに、それだけしか言えない。


「どうしたんです?」


意外にも先程とはうってかわっていつもみたいに明るくなって、ん?と微笑みながら顔を覗き込んでくる。


きっと自分らしくない態度を見せてしまったことが恥ずかしくて、そうやってごまかしているんだ。


わかっているのに妙に甘ったるく、なまめいた媚びるような視線と声に、心が掻き乱される。


まともに目を合わせたらドキドキしすぎておかしくなってしまうような気がして、また顔をそむけてしまう。


「用があるから呼んだんじゃないんですか?」


私の反応が面白いらしくニヤッと笑っている。


「いつもそうやって意地悪するんですね」


「意地悪しているつもりはありませんがね」


「でもからかうじゃないですか」


すると左近様の顔がフッと真剣なものになった。


「からかうのは、本当はあんたの心を繋ぎ止めておきたいからかもしれない。気を引いておきたくて、でもそうしようとすると…」


「嫌だなあ。わざわざ繋ぎ止めなくたって私は左近様の隣にいますよ」


私は明るく笑い飛ばした。


「誑しの左近様らしくないことを言うんですね」


ポンと彼の肩を叩き、また笑ってみせる。


「今日の左近様、変ですよ?どうしたんですか?」


「あんたには心が乱されてばかりですね」


「え?」


唐突にそんなことを言われ、戸惑う。


「俺に愛されないなら雪になって消えてしまいたいだなんて。なぜそこまでこんな俺のことを」


切なそうに紡ぎ出される問いに、私はそっと微笑んで答えた。
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