情炎の焔~危険な戦国軍師~
「あいつ、ですか?」
きっと前に話に聞いたゆいさんという人のことだろう。
そんな予想はつくが知らないふりをして清正様に聞き返す。
「ああ。彼女は歴戦の勇士で秀吉様もその実力は買っておられた」
「だがあいつは家康殿の頼みで徳川方に来ちまったからな」
正則様はそう言って憐れむように佐和山城を振り返った。
「三成は家康殿と比べて潔癖で清廉すぎる」
清正様のこの言葉は、三成様が豊臣の世に拘泥し、故太閤殿下の大坂城に土足で踏み込む徳川家を、秀吉様への冒涜だと思って徹底的に憎んでいることを言っているらしい。
「なあ。お前は三成が、徳川派の将達が企てた石田屋敷の襲撃計画が原因でここに来たということを知ってるか?」
ふいに正則様が口を挟んできた。
「はい」
「あの計画には俺達も加担してたんだ。と言っても、三成が憎いからじゃない。襲撃して、家康の力にあいつがおののけば良いと思ってた。あわよくば徳川方についちまえば良いと思ってた」
正則様は悔しそうに語る。
「それくらいのことで徳川に屈する性格じゃないのは、俺達が一番良く知ってたはずなのにな」
そう寂しそうに笑った。
清正様が言う。
「友衣。お前からも三成に言ってやってくれないか。今の徳川には力がありすぎる。あいつは何もわかってない。豊臣家が日の本を統治するという甘い夢をいつまでも見続けている」
知ってはいたけれど石田と徳川の両者間の溝の深さを目の当たりにし、私は慶長5年という時間(とき)に来てしまったのだな、と改めて実感した。
慶長5年2月。
関ヶ原の戦いまであと7ヶ月。
きっと前に話に聞いたゆいさんという人のことだろう。
そんな予想はつくが知らないふりをして清正様に聞き返す。
「ああ。彼女は歴戦の勇士で秀吉様もその実力は買っておられた」
「だがあいつは家康殿の頼みで徳川方に来ちまったからな」
正則様はそう言って憐れむように佐和山城を振り返った。
「三成は家康殿と比べて潔癖で清廉すぎる」
清正様のこの言葉は、三成様が豊臣の世に拘泥し、故太閤殿下の大坂城に土足で踏み込む徳川家を、秀吉様への冒涜だと思って徹底的に憎んでいることを言っているらしい。
「なあ。お前は三成が、徳川派の将達が企てた石田屋敷の襲撃計画が原因でここに来たということを知ってるか?」
ふいに正則様が口を挟んできた。
「はい」
「あの計画には俺達も加担してたんだ。と言っても、三成が憎いからじゃない。襲撃して、家康の力にあいつがおののけば良いと思ってた。あわよくば徳川方についちまえば良いと思ってた」
正則様は悔しそうに語る。
「それくらいのことで徳川に屈する性格じゃないのは、俺達が一番良く知ってたはずなのにな」
そう寂しそうに笑った。
清正様が言う。
「友衣。お前からも三成に言ってやってくれないか。今の徳川には力がありすぎる。あいつは何もわかってない。豊臣家が日の本を統治するという甘い夢をいつまでも見続けている」
知ってはいたけれど石田と徳川の両者間の溝の深さを目の当たりにし、私は慶長5年という時間(とき)に来てしまったのだな、と改めて実感した。
慶長5年2月。
関ヶ原の戦いまであと7ヶ月。