情炎の焔~危険な戦国軍師~
三成様の部屋の前に行くと、左近様との会話が繰り広げられていた。


なんとなく気になった私は障子に近付いて聞き耳を立てる。


「左近、お前は清正達の話をどう思った」


「そうですね。今すぐ家康に屈服しろとは言いませんが、奴に刃向かうのは少々危険かと」


「なぜだ。なぜお前までそのようなことを言う」


「殿は俺に家康と戦えと言ってほしかったのですか?」


「それは違う」


「先程家康の悪事を披露なさいましたね。あそこまでご存知ならなぜ?あれらの横柄な行いはつまりそれだけ家康が権力を持っているということですよ」


「だが秀頼様は秀吉様の…」


「残念ながら事実上の権力者は家康ですよ。まともに戦って勝てる相手じゃありません。どうしてもとおっしゃるなら1つだけ方法がありますが」


左近様の声がひときわ低くなった。


「何だ?」


「暗殺です」


「何?!」


三成様の声色が曇る。


「家康を殺せ、と一言命じて下されば俺が大坂に忍んで行って奴の首を取りましょう。まあ、向こうもバカじゃないから俺の命も保障出来ませんが」


「…ダメだ。それでは家康に勝ったことにならぬ」


「正々堂々と真っ向勝負して勝ってこそ、真の勝利とお考えですか」


「そうだ。それにそのようなやり方は島左近という軍師の名折れだ」


「まあ、それを言っちゃおしまいですがね」


史実を知っている私はぎゅっと手を握りしめる。


もし清正様や正則様のように三成様も徳川方についてしまえば、関ヶ原戦後の悲劇をたどらずに済むのに。
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