情炎の焔~危険な戦国軍師~
ある日、法春さんが散歩に出かけるので小助と共に寺の留守番を任された。


小助が別室に向かって仏間に1人になったのを見計らって、仏壇に向かい手を合わせる。


「どうか、どうか友衣さんに会わせて下さい。お願いします!」


この14年間、呆れるほどに祈った。


何の甲斐もないのに、何度も。


だが、無駄だとわかっていても祈らずにはいられなかった。


その時。


「もう1度私をあの人の元へ連れてって!!」


ふいに彼女の声が聞こえた気がした。


しかし、見回してみても誰もいない。


小助は別の部屋にいるはずだ。


「気のせいか」


落胆しながら俺は呟いた。


「左近殿。ただいま戻りました」


しばらく打ちひしがれていると、玄関から法春さんの声がする。


俺はいつも通り出迎えるために重い腰を上げて玄関に向かう。


「法春さん。お帰りなさ…」


最後の一文字は出なかった。


法春さんの隣にいたのは、この14年間ずっと恋い焦がれていた人だった。


あの時とまったく変わらない、桜のように淡く儚い姿がそこにあった。


俺が求め続けた、花。


「友衣さん…?」


「左近様!」


俺の胸に飛び込んでくる彼女は、驚くほどに14年前と何もかも同じだ。


でも、そんなのどうだっていい。


愛しい花が自分の中で再び咲いている。


それだけが真実で、最高の現実だから。


「来てくれたんですね」


これは夢でも幻でもない。


それを確かめるようにそっと彼女の背中に触れる。


優しい温かさを感じた。


「ずっと会いたかったんですよ」


「私だって」


「寝ても覚めてもあんたのことばかり考えていた。忘れようとしても忘れられなかった」


14年間抑えていた思いが滔々(とうとう)と溢れ出す。


また友衣さんと共にいられる。


それが嬉しすぎて。


14年間、戦がなくて。


これが波乱の幕開けであることを、俺は微塵も考えていなかった。
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