情炎の焔~危険な戦国軍師~
その夜。


「それにしても」


左近様がまじまじと私を見てくる。


「あんた、ずいぶん色女になりましたね」


「ええ?!そうですか?」


いくら14年経っているといっても、現代に戻ってからは実質1ヶ月しか経っていない。


そんな短期間に変わるものだろうか。


っていうか、まさか私が色女と言われる日が来るとは。


人生は何が起こるかわからないな。


まあ、戦国時代にタイムスリップしてしまった時点で、そう思うべきだったかもしれないけど。


なんて考えを頭の中で繰り広げてることなど知るはずもない左近様は、まだ熱っぽい目でこちらを見ている。


私はふっと笑って言った。


「もしかしたら恋をしているからかもしれませんね」


「恋?」


あからさまに曇る彼の顔。


「やだなあ。そんな顔しないで下さいよ。私が恋する相手は、左近様しかいないに決まってるじゃないですか」


「すいません、てっきり。年を取るとどうも余裕がなくなってしまいますね」


苦笑している。


「でも左近様、14年前とあまり変わってないですね」


まあ、その方が嬉しいんだけど。


すぐからかうし、いやらしいけど優しくていつも笑顔で、私を大切に思ってくれる左近様に惹かれたんだ。


「あ」


いきなりギュッと厚い胸に抱き寄せられる。


「そんなに綺麗な浴衣まで着て。これ以上他の男には見せられませんね」


「大丈夫でしょう。ここには法春さんと小助くんくらいしかいないですから」


小助くん、と言ってもあれから14歳年を取ったわけだから、今や私より年上の立派な僧になっていたけど。


「本当はその2人にさえ見せたくない」


「やだ、相変わらず口がうまいんですから」


「本心です」


私は笑って左近様に寄りかかる。


「ずーっと、私は左近様だけのものですよ」


「友衣さん」


名前を呼ばれ、我ながら似つかわしくないセリフにめちゃくちゃ恥ずかしくなりながら返事した。


「は、はい」


「そんな殺し文句、今の俺には…」


切なげな声に戸惑ってしまう。


「こ、殺し文句?」


「ええ、殺し文句ですね。言ったでしょう?俺には余裕がないって」


後頭部を愛おしむように撫でられた。


そうされると安心し、ああ、左近様の元に来られたんだ、と改めて実感する。


そっと彼に頭を委ね、目を閉じた。


「左近様…」


「友衣さん…」


甘やかなときめきに私は時間を忘れた。
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