情炎の焔~危険な戦国軍師~
数分後。


私と左近様は、法春さんに借りた馬に二人乗りして山道を走っていた。


(左近様の背中…やっぱり大きくて温かい)


私など包まれてしまいそうなくらい広い背中に頭を委ねていると、眠りに落ちてしまいそうなくらい安心する。


まるで映像のように視界を流れていく木々が延々と続いて景色が単調なのもあって、うとうとしてきた。


こつんと背中に額をぶつけるようにもたれかかると、温かい声が頭に響いた。


「お休みですか?」


「ちょっとうとうとしちゃって」


「寝たら落馬しますよ。ちゃんとつかまれないですから」


「確かに」


慌てて姿勢を正すと、ハッハと笑う声がした。


「寝てもいいですよ。俺がつかまえてますから」


私の両手が交差している所に、大きな手が重なる。


「でも片手で手綱を繰るなんて」


「これでも歴戦の軍師なんでね。片手で馬に乗ることくらい、なんでもありません」


そういえば片手で手綱を持って、もう片方の手で刀や槍を振りかざしてたっけ。


ー「殿に、そして友衣さんには指1本触れさせない。 皆の者、かかれーっ!!」ー


左近様と戦のことを思い出したら、関ヶ原でのことが頭をかすめた。


あの戦いで討ち死にしたと言われている人が14年経った今、目の前にいる。


そんな奇跡に感謝したくて、思わずぎゅっと体ごと左近様に抱きついた。


「どうしたんですか?いきなり抱きついてきて」


「左近様が関ヶ原で死ななくて良かったなって」


「あそこで死んでたら友衣さんとも、こうして一緒にいられませんからね」


リア充感満載の会話につい、ふっと笑いがこぼれる。


その後も二人でいられる幸せを改めて感じながら馬に揺られていた。


夢のように時間が流れ、目的地に着いた時にはもう空が暮れなずんでいた。


「ここです、友衣さん」


…ん?
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