情炎の焔~危険な戦国軍師~
「それにしてもあんた、無事でしたか」


左近様は私の顔を見るなり開口一番に言う。


「はい。この通り」


「ああ、良かった」


「本当に。それにしてもまさかこんなことになるなんて」


私は現代から持ってきた小さな籠のバッグを畳の上に静かに置く。


隙間から、あの八重桜の髪飾りがキラリ、と煌めいた。


「そうですね。幸村に大坂城に連れて来られるなんて思いもしなかった。そういえば、忘れ物です」


そう言って左近様が胸元から差し出したものは、あの島家の家紋が刻まれた鞘に納められた小刀だった。


「あっ。ありがとうございます」


「また持っていて下さい。戦乱の世がおさまるまで安心は出来ない。あんたの身に何かあったら大変ですから」


「はい」


嬉しい言葉に思わず頬が緩んだ。


お守りにしなきゃ。


刀をそっと懐にしまう。


あ、戦乱といえば。


「そういえば、左近様も幸村様に、戦うようにお願いされました?」


「ええ。殿の思いを知っているからこそ協力してほしいってね」


「実は私もなんです」


「ま、豊臣のために戦わせるために、いいように言いくるめられた気がしなくもありませんがね。でも」


左近様はフッと微笑んで続けた。


「この先がどんな運命だろうと俺は戦うつもりですよ?未来のため、あんたのその笑顔のためにね」


私は頷く。


「次の戦いで、今度こそ乱世を終わらせる」


「はい!」


そして私がここに来た意味を果たすんだ。


私は縁側へ行き、水色の絵の具で斑(むら)なく染めたような雲ひとつない空を見上げた。


三成様。


見てて下さいね。


その後、私は訓練へ行くという左近様と別れて、桔梗さんと掃除をしていた。


夜は侍女達が詰める部屋で過ごし、左近様とは会わなかった。


彼は普通に過ごしているものだと信じて疑わなかったのだ。


りつさんの姿が、侍女の部屋にないことにも気付かないで…。
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