情炎の焔~危険な戦国軍師~
翌朝、私は左近様の部屋を訪ねた。


昨日、持ってきた小さな籠のバッグをこの部屋に忘れてきてしまったことを思い出したからだ。


今日はあの桜の髪飾りを着けたい気分なのに。


「失礼します」


左近様なら許してくれるという甘えが心のどこかにあったのか、返事が聞こえなくても襖を開けてしまう。


「…」


目を疑った。


そこにいたのは寝息を立てる左近様。


そしてその奥に、りつさん。


左近様と同じ布団に入り、肩から上を外に出している。


しかし、彼女が服を着ているようには見えない。


透き通るような白い肌が、目を直撃する。


りつさんは立ち尽くす私を見て、首を傾けて微笑んだ。


その顔には優越感が溢れ出ていた。


「っ!」


私は襖を荒々しく閉め、廊下をバタバタと走りながら侍女の部屋に戻る。


どうして…。


疑問符が浮かぶと同時に、何だか腹が立ってきた。


もちろんりつさんにも腹立たしい思いがあるけど、簡単に部屋に女を入れる左近様もあんまりだ。


りつさんが何を言ったか知らないが、その日から左近様は私にそっけなくなった。


話しかけても、生返事ばかりで目もろくに合わせてくれない。


私もわざとそっけなくしてみようと思っていたからちょうどいい。


そんな風に強がっていられたのは最初の3日ほどだけだった。


やっぱりこのままじゃダメ。


彼に話しかけられるのを待っているだけでいいわけない。


左近様からあの日、りつさんと何があったのか直接聞かなきゃ。


そう思って私はある昼下がり、左近様を廊下で捕まえた。


「あんた…」


気まずそうなのは果たしてここ数日ろくに話していなかったせいか、それとも何か後ろめたいことがあるせいか。


見慣れない、困惑した顔からは真相はわからなかった。
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