情炎の焔~危険な戦国軍師~
それから夜まで時間があったので、庭で兵に混じって訓練をした。


自分を元気付けるように、庭に響き渡るくらいの声で竹刀を相手に向けて振る。


「たあっ!」


「はっ!」


カタン。


相手の竹刀が、自分の持っている竹刀を巻き込むように動き、手から竹刀が落とされた。


やれやれ、現代では何もやらなかったから腕が落ちているな。


歴史を変えるにはまだまだ修行が足りないと思いつつ、休憩するために縁側に座ると、他の兵が会話をしていた。


「しっかし、本当に桜殿は可憐だよなあ。あの子がいたらこの訓練、もっと頑張れるぜ」


「桜殿かあ。確かに清純無垢な感じで癒されるな。俺はりつ殿も好みだが」


「確かにあの人は可憐というよりは美しい、妖しい魅力があるよな。あの危うい感じがな」


侍女達の品定めをしているのか、そんな内容の話が繰り広げられている。


私など名前が出ることもないんだろう。


でも、どうだっていい。


私は左近様がいてくれれば…。


そこまで考えてハッとなる。


何だかんだ言ってもやっぱり私、あの人のこと考えちゃうな。


直後、一糸まとわぬりつさんの隣で咲いていた穏やかな寝顔をまた思い出した。


私以外の女の人とだなんて正直、悔しい。


私の何がいけないのだろう。


やっぱり綺麗な人がいいから私なんて相手にしてくれないの?


思わず空っぽの手をにぎりしめて呟く。


「何よ、もう意味わかんない。なんでりつさんなんか」


「へー、嫉妬?」


いつのまにか藤吾さんが私の隣に座っていた。


「な、何ですか?」


「いや、さっき話したばかりだけどやっぱり心配になって」


「え?」


「自分に非があると思い込んで、1人で思い詰める性格っぽいから。友衣って」


「何を根拠に?」


「忍の勘」


そう言って藤吾さんはわざとらしく腰に手を当てて、それはもうドヤ顔で笑ってみせた。


その様子がおかしくて思わず吹き出してしまう。


「何ですかそれ」


「お、笑った。それなら少しは大丈夫かな」


藤吾さんは、今度は嫌味なくフッと微笑んだ。


幸村様も、影月さんも、この人も。


私を気にかけてくれる人がいる。


少し心強さを感じて、感謝を込めた微笑みを返し、私はまた訓練をするべく庭へ駆けていくのであった。
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