情炎の焔~危険な戦国軍師~
翌朝。


朝餉を終えた私は真っ先に左近様の部屋へ早歩きで向かった。


溜め込んだ感情が暴れ出しそうだ。


「失礼します」


断りを入れて室内にお邪魔する。


「あんた…」


気まずそうな彼の目の前に、襖を閉めてから座る。


「左近様、ひどいじゃないですか。裏切ったんですか?」


「そんなつもりは…」


唐突に「裏切ったんですか?」としか聞いていないのに、答えたということは何のことか心当たりがあるようだ。


「りつさんとも、桜さんともだなんて。見たんですからね、恋愛関係になきゃしないだろうことをしてる所」


間髪入れずにまた喋る。


「私、信じてたのに。結局は左近様も他の兵士達と同じなんですね」


桜さんが可憐だとか、りつさんが美しいとか話していたあの兵士と一緒だ。


「それは…」


「言い訳なんか言わないで下さい」


「友衣さん、ちょっと落ち着いて下さい」


しかし、冷静になどなれなかった。


なぜあなたはそんなに落ち着き払っているの?


それが余計に私を短気にさせた。


「前に「俺は確かに若くない。だが、あんたを思う気持ちはあの時と変わらない。もちろん、これから先も」って言ってくれて本当に嬉しかった。なのにどうして」


「友衣さん、ひとまず落ち着いて下さい。俺は何もしていない」


ああ、そのまっすぐな瞳を信じたい。


でも、頭にしつこく浮かぶりつさんの微笑みと桜さんの姿がそれを許してくれなかった。


「信じて下さい」


その真剣な言葉に対しても、肯定の返事をすることを許してくれなかったのだ。


「信じられるわけないでしょう!」


私は話を聞きに来たはずなのに。


「そんな人の虚ろな言葉なんて要りません」


もう彼の言葉を聞かないでその部屋を辞した。


我ながら気が短いと思ったけれども、裏切られた悲しみが濃い霧のように心を覆っていて怒りをぶつけることしか出来なかった。
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