情炎の焔~危険な戦国軍師~
もうどうでもよくなった私は部屋に戻ってゴロンと寝転がる。


「バカ…」


それは左近様に対してなのか、自分自身に対しての言葉なのかわからない。


ただ、多少乱暴だったけど自分の思いを伝えられたからいいかな、なんて強がる。


しかし、その直後には焦りを感じていた。


私は彼の言い分を聞こうともしないで一方的に怒ってしまった。


彼に歩み寄ろうとしなかった。


あの人を傷付けるのを誰よりも嫌ったのは私だと思っていたのに。


自己中心的な自分の行いを恥じる。


このままじゃ本当にあの人は、りつさんか桜さんのものになってしまう。


あのクラクラするような艶かしい微笑みを浮かべて。


低い声で蕩けてしまうような台詞を囁いて。


あの男性らしい大きな手で、私ではない女の人を抱くというの?


想像しそうになって、思わず首をぶんぶんと振る。


「嫌だっ」


もう嫌。


侍女なんて…。


その時、頭上から声が降ってきた。


「友衣?」


「桔梗さん」


私は起き上がることも出来ないで返事をした。


「どうしたの?そんな悲しげな顔して」


本当に心配そうな顔を向けてくれるので、ゆっくりと体を起こしてから少し気持ちを打ち明ける。


「私、ずっと左近様と一緒にいられるんだって思ってました。だけど、今はもう…」


「どういうこと?」


その問いには答えず言う。


「今、怖いことを考えてしまいました」


「怖いこと?」


「侍女なんてみんないなくなっちゃえばいいのにって。だってもしそうなったら、左近様は私だけを見てくれるでしょう?」


近いはずなのに遠い。


「きっと、そうでしょう…?」


「友衣…」


そう呟く私を桔梗さんは憐れむように見ていた。


出来ることなら佐和山城で笑い合っていたあの頃に帰りたい。


こんな悩みなんてなかった日々に…。
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