情炎の焔~危険な戦国軍師~
「!?」


驚いて目の前の小柄な女の顔を見る。


まるで張り詰めた弓の弦のようで、とても冗談を言っているようには見えない。


だが。


「俺が愛するのは、一人だけですから」


「友衣さん、ですよね?」


「あんた、なぜそれを?」


「あなた方を見ていればわかります。でも最近は」


「それ以上は言わないで下さい」


彼女の悲しげな顔が頭の中にちらついて、苦しい。


「あたしではダメなんですか?」


その言葉に思わず閉口する。


俺達の最近の事情を察しているくせに、そんなことを言うなんて。


「あんた何言ってるんですか」


「別に一番じゃなくていいんです」


「?」


「友衣さんの代わりだっていいです。だから、だから」


桜さんはそう言って泣きそうな顔で胸に飛び込んでくる。


「っ!」


その時、ぐらりと胸が揺れた気がした。


ー「左近様!」ー


そう言って甘えん坊の子供みたいに俺の腕の中に飛び込んで来る友衣さんを感じたのだ。


触覚も、体温も。


ここ数日ずっと触れていない彼女の温かさを思い出し、いつものように離れぬよう抱きしめたくなる。


また友衣さんの顔を思い出す。


最近はいつも、らしくない暗い顔ばかりだった。


以前、俺が好きだと言った花咲くような笑顔を最後に見たのはいつだっただろう。


それほどまでに彼女との距離が開いてしまったんだと感じた。


ふう、と深いため息をひとつしてから、彼女と同じくらい華奢な肩に手をかけた。


ゆっくりと、言葉を紡ぐ。


「桜さん。俺…」


友衣さん。


許して下さい。
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