情炎の焔~危険な戦国軍師~
昼頃の城下町は相変わらず人々の声で賑わっている。


秀頼様が兵力として牢人を集めているからいつもより数段人の往来が多く見えた。


こうして歩いていると、友衣さんと佐和山の城下町を共に歩いた時を思い出す。


「左近様、あれは何ですか?」


そう言って大きな目を幼い少女みたいに星のように輝かせていた。


それが20年以上昔のことに思える。


「…」


急にある思いが胸を掠めた。


ずっと心のどこかで抱えていた罪悪感。


俺はあの者逹を捨てて、惚れた若い女と幸せになって良いのだろうか。


今更そう思う。


彼女が俺の過去をどこまで知っているかは知らない。


だが、今考えていることに関しては知らないだろう。


もしそれを言ってしまったら、彼女がいなくなってしまう気がした。


そして二度と会えなくなってしまう気がした。


友衣さんはこんな俺でも愛してくれるのだろうか。


ただでさえ今うまくいっていないというのに、俺の秘密の過去を知ってしまったらただで済むとは思えない。


生まれた時代がはるかに違う彼女と共に生きるのは、もしかしたら間違っているのではないか。


それでも、心は待っていた。


「左近様!」


そう言って友衣さんが息を切らせて走って来るのを。


俺はやはり、彼女を手離すことなど出来ない。


もう後戻り出来ないほどに彼女のすべてを愛している。


友衣さんは400年以上先の未来から来た人間で、それはもちろん本来ありえないこと。


そんな普通ではない出逢いをした人間を本気で愛するようになるとは、これは運命なのだろうか。


俺達が運命だというなら、どんなに軌道を逸れてもどこかで修正点を見つけられるはず。


城下町であるはずのない答えを探して、足が疲れるまで歩き続けた。


しかし、日が傾きかけた頃になっても彼女は現れない。


ため息をつきながら川のほとりに立つと、夕日に照らされた水面が煌めいて美しい。


船着き場を見つけた俺は術にでもかけられたように舟に乗る。


宛てもないくせにどこかへ行こうとしている。


そして、そのくせ後ろ髪を引かれる思いが苦しいほどに強く胸を締め付けた。


友衣さん。


俺が過去にどんなことをしても、あんただけは…。


その時だった。
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