情炎の焔~危険な戦国軍師~
「左近様!」


左胸の奥が跳ねた気がした。


振り向くと川岸に、姿を求め続けた彼女が立っている。


何を言いに来たのだろう。


嬉しいはずなのに、まだ運命を試したくて聞こえなかったふりをした。


「おいて行かないで下さい!」


必死な声が胸を揺さぶる。


「左近様あっ!」


振り向こうとしたその時。


「ごめんなさい!」


その言葉にハッとする。


「さっきは話を聞かないで怒ってごめんなさい。私、怖かったんです。真実を聞くのが。だって左近様が好きなんですもん。でも、それは私の身勝手。左近様も事情があるからさっきちゃんと話をしてくれようとしたんですよね?」


友衣さん…!


「だから、今さらかもしれませんが話を聞かせてくれませんか。お願いです!」


たまらず振り向くと、彼女は泳げないはずなのに胸まで川の水に浸かっているような状態だった。


相変わらずの無鉄砲さに内心驚きながらも彼女の元へ戻り、手を差し出す。


俺のためにこんなになってまで…。


「言うまでもありませんが、帰ったら真っ先に着替えですからね」


今、語る必要はない。


城に戻ったらいくらでも話そう。


「はい」


頷く彼女に、小袖を一枚脱いで着せてやってから小さな冷たい手を引いて夕闇が迫る中、大坂城へ帰った。


夕闇にぼんやり浮かぶ城の明かりは、心なしかいつもより温かく見えた。
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