情炎の焔~危険な戦国軍師~
「お、いつもと違う反応だ」


私のリアクションを楽しんでいるようで、左近様は少しニヤニヤしている。


「いいじゃないですか」


「分かっててそんな顔してるってことは、つまり何をされてもいいってことですね?」


顎をスッと持ち上げられて、視線がバチッと合う。


「左近様は相変わらず危険な戦国軍師だ」


ささやかな抵抗のつもりで言った。


「あんたの心を捉えるためなら軍略を駆使するどころか修羅にだってなります」


顎に触れていない方の大きな手が、私の右手を優しく握った。


「左近様ったらキザだ」


そう言ったけど嬉しくてつい、その手をそっと握り返す。


「ハッ、俺が気障だなんて。可愛い顔して言ってくれるね、お姫様?」


その言葉に思わず吹き出してしまった。


「ぷっ!私がお姫様とか似合わなさすぎる。身の丈に合った呼び名でお願いします」


「似合わなくないと思いますがね。では、お嬢ちゃんで」


「じゃあ私は旦那様と呼ばせて頂き…いやいや、やめましょう。やっぱり名前で呼び合うのが一番ですよ、左近様」


「それもそうだ。可愛い友衣さん」


「!」


大人の男の低く、しかも愛しい人の声でこんなことを言われたらもうドキドキしすぎて心臓もたない。


おまけにちょっと体が熱くなってきたかも。


「あの、すっごく贅沢な注文ですが可愛いは取って下さい」


なんとかそれだけ言う。


「なぜです?」


「さ、左近様の良い声で言われたら、ときめきを通り越して恥ずかしい…」


「そんな可愛いこと言われると、余計に言いたくなるんですがねえ」


「ひどい」


「まあまあ、そう言わず。気持ちに素直なだけってことで許してもらいましょ?」


「何ですかそれ。めちゃくちゃですよ」


「うん、俺もそう思います」


少し前までのわだかまりが嘘みたいに私達は笑い合う。


しかしどれほど穏やかな時間を過ごそうとも、歴史は動いている。


戦の時は確実に近付いて来ているのであった。


慶長20年正月。


戦国最後の戦い、大坂夏の陣まであと4ヶ月。
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