情炎の焔~危険な戦国軍師~
第51戦 真田幸村という男
「せい!はあっ!」


ある日、廊下を歩いていると中庭で幸村様が槍を振り回していた。


鋒(きっさき)が空を駆ける燕のように華麗に宙を舞ったと思うと、ヒュン!と真横に空気を裂いて突き出される。


見事な槍さばきだ。


「おお、友衣殿か」


彼は私に気付くと微笑み、こちらにやって来た。


「鍛錬ですか?」


「ああ。もうすぐ徳川との戦が待っているからな」


あと、4ヶ月。


何とかしなきゃ4ヶ月後にこの方は…。


幸村様はそんなことなど知るはずもなく風のように爽やかに笑う。


「しかし、さすがに少し休みたい」


彼の額には、髪の毛さえも凍りそうな冬だというのにうっすら汗が光っている。


「せっかく天気も良いのだ。友衣殿、気晴らしに共に川へ行かぬか?」


私は頷き、幸村様と淀川へ向かった。


眩しい水面のきらめきに目を細めつつ、大小様々な大きさの石ころで埋め尽くされた川岸に座る。


「友衣殿や左近殿は、三成殿に仕えていたのであったな?」


「はい」


「あの御仁は乱世では珍しいほどに清廉であった」


「ええ。三成様は友である加藤清正様や福島正則様、それに大谷吉継様の忠告を受け入れず、戦を起こしました。大戦で以てのみ家康殿を倒すことを考えていたなんて、清廉すぎるほどです。そしてあんなことに」


あっ、吉継様といえば。


確か彼のご息女が幸村様の正室。


つまり義理の親子なんだ。


私は小説やゲームで得た知識を引っ張り出してそんなことを考えていた。


「うつけだと思うか?そんな三成殿を」


「思いません。確かに、どうして?と思うこともありましたが守りたいもののために、最後まで命懸けで戦い、抗った。まっすぐで強い人だったんだと思います」


幸村様はフッと微笑を浮かべる。


「そういえば、幸村様は15年前、お兄さんと袂を分かつことになったんでしたよね。三成様とそんな話をしました」


父上の真田昌幸様、幸村様は三成様。


そして幸村様の兄上、信之様は徳川に味方したのだ。


「信之様の奥方、小松殿は徳川家の側近、本多忠勝殿のご息女だから信之様は徳川に味方したんでしょうか」


そんな簡単な話ではないと分かっていながらも言う。


「兄上、いや某も父上も家のためにこうなったのだ」


「家のため?」


幸村様は聞き返す私の顔を、放たれた矢の如くまっすぐ見て言った。


「そなたは、そんな我々を愚者だと思うか?」
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