情炎の焔~危険な戦国軍師~
ーサイド幸村ー


慶長5年、冬。


犬伏にて。


父、昌幸と兄、信之。


そして某は夜も更けた頃、とある古びた庵で人目を忍ぶように集まった。


三成殿と家康殿の対立がいよいよ本格化してきている。


我々真田はどちらにつくべきか。


その話に違いない。


「信之は徳川へ行け。わしと幸村は三成に味方する」


家族の再会を喜んでいる場合では無論なく、父上は開口一番にそう言った。


「父上!?」


突然放たれた言葉に、某はそれしか返せない。


「それが真田が生き残る最良の方法じゃ。たとえどちらかが負けようとも、勝った方が真田を守っていけば良い」


「父上、お待ち下さい。幸村、お前はそれで良いのか?」


兄上がこちらを心配そうに見た。


昔から変わらない。


徳川家臣の娘御を娶(めと)った立場となっても、この方はいつも某を気遣ってくれる。


ならば、それに応えるべくしっかりと決意を述べねばならぬ。


「かの忍城攻めの際に三成殿と出会い、それ以降ずっと良き友としておりました。それ故、あの方に刃を向けるなど到底出来ませぬ。兄上もそれは同じでしょうに、本当にそれで良いのですか?」


本当は首を横に振ってほしかった。


誰しも家族同士で討ち合いたくなどない。


しかし、兄上は


「ああ。小松を娶(めと)った時点で私は徳川の人間だ。それだけではない。家康殿と接する度に、あの方の器の大きさを思い知らされていく。私はあの方をお支えしたいのだ」


そうきっぱり言い放つ。


一寸の迷いもなかった。


それが兄上だ。


「話は決まったな」


父上が頷く。


分かっている。


真田の家を守るためには仕方のないことなのだ。


だが、父上も兄上もあまりに冷静すぎる。


そんな某の思いを見透かすかのように父上は少しだけ口元を綻ばせて、問いかけてきた。
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