情炎の焔~危険な戦国軍師~
「幸村。お前は思っているのではないか?家族で袂を分かとうというのに、なぜこれほど淡々としているのか」


「それは」


「こうでもせねば気持ちに踏ん切りがつかぬのだ」


答えたのは兄上だった。


「父上やお前と敵になるなど、心苦しくないわけがない」


「兄上…」


「これも武士のさだめだ。我々が守るべきは己ではない」


常に冷静沈着であるはずの兄上の握り拳は、わずかに震えていた…。


そして慶長5年9月、上田城に攻めて来た徳川秀忠軍を、某は父上と共に策によって退けた。


「はっはっは、徳川の子狸(秀忠)め。わしらに怖じ気付いて尻尾をまいて逃げていきおったわ」


天守閣から父上は高らかに笑っている。


「三成は大丈夫かのう、幸村」


「義と恩。そして高き志を抱く三成殿は負けませぬ」


妻の父上、つまり義理の父上である大谷吉継殿も三成殿に味方したという。


きっと、大丈夫だ。


「徳川秀忠隊の足止めは出来た。三成殿、後は…」


その時、影月が疾風のように駆けてきた。
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