情炎の焔~危険な戦国軍師~
「友衣さん?」


不思議そうな顔の左近様。


「あんた、何言ってるんですか」


「侍女に騒がれて、なんか私といる時より楽しそうな顔してます」


「気のせいでしょう」


「そんなことっ‼」


そよ風のように涼しい顔が余計に私の中の炎を燃え上がらせる。


「それに、俺はいい年だ。いい年した男が若い女に入れ上がってるだなんて格好がつかない」


なんだ、プライドとか体面の問題だっていうの?


「今までそんなこと気にしなかったじゃないですか」


「言葉には出さなくても、他人の前で態度に示さなくても、俺は友衣さんを大切にしている。それでいいじゃないですか」


なんだか適当に言われている気がする。


「なんでそんなに適当に済ませられるんですか」


「適当?」


左近様の顔が、サッと曇る。


「あんた、変ですよ。少し頭を冷やして来た方がいい」


その声は、突き放すかのような冷たさだった。


「頭を冷やして来るまで、話しませんから」


そう言って彼はくるりと背を向けて早足で去っていく。


「ごめんなさい…」


届かない謝罪の言葉を呟きながら、私は昨日の夜を思い出していた。


私が寝たふりをして褥に寝転がっていると、ふいに唇がふわりと柔らかな温かさに包まれた。


「大切にさせて下さい?」


優しい声が降ってくると同時に、愛おしむように髪を撫でられたのだ。


あの時私は本当の愛を感じた。


幸せってこういうことなんだって思った。


だけど、その愛がいつまで続くか怖い。


いつか誰かに取られてしまうんじゃないかって常に怯えている。


だから不安要素があると過剰に反応してしまうの。


過剰であるがゆえに、余計に幸せなはずの現実を危うくしてしまうというのに。


「私のバカ…」


昨日まであんなに情愛溢れていたのに、こうやって些細なことで悲しい展開になってしまう。


そしてその些細なことで愛が壊れてしまいそうな不安にまた駆られる。


友達とならケンカしてもすぐ仲直り出来たのに。


つらいよ。


恋愛ってつらいよ。
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