情炎の焔~危険な戦国軍師~
それから彼女は俺と話すどころか目を合わせようとすらしなくなった。
代わりに藤吾と何か話していることが多い。
本当に俺より藤吾を好きになってしまったのか。
そりゃあいつは涼しげな顔立ちをしているし、俺と違ってまだ若い。
だが、引っかかる。
あいつと話している時の友衣さんの顔は、どう見ても楽しそうではなかった。
俺の前ではたくさんの笑顔を見せてくれた彼女とはとても同一人物には思えないほど、友衣さんの表情はまるで今にも雨が降り出しそうな空のようにいつも暗く雲っているのだ。
そう思った瞬間、俺は二人に近付き、強引に友衣さんの衣の袖を引いていた。
「ちょっと友衣さんをお借りしますよ」
困惑した表情の彼女を誰もいない部屋に連れていく。
「藤吾を愛しているんですか?」
「…」
聞いてみても困惑した表情は変わらない。
「友衣さん。ちゃんと話してくれないと、わかりませんよ」
「左近様。もう私に構わないで下さい」
「だったらどうしてそんな悲しい顔をするんです」
友衣さんは悲痛な面持ちになっていた。
「ねぇ、友衣さ…」
「黙って下さい!」
突如、空気をも引き裂くような鋭い声に遮られる。
「私は、私は」
「?」
「私は左近様じゃない、藤吾さんが好きなんです」
「しかし」
「嫌いです。左近様なんて」
「…!」
はっきりと言葉にされて、頭を殴られた心地だった。
「そうやって、寂しい嘘をつくんですね」
締めつけられるようにギリギリと痛む心を無理に隠して言う。
「嘘なんかじゃありません」
「そんな悲しい顔、あんたには似合いませんよ」
だってあんたはいつも、ころころ目まぐるしく表情を変える感情豊かな人だ。
こんな暗い顔ばかりしているなんておかしい。
「あなたに私の何がわかるんですか?」
「あんたのすべてを知っているとは言わない。だがあんたが今、無理しているってことは少なくともわかります」
すると彼女の顔色がサッと変わった。
深く、暗く、奈落のように。
「それは間違いです。やはりあなたは何もわかってない」
そう言って、あの優しい友衣さんとはとても思えないような残忍な笑みを浮かべていた。
「どうしてしまったんです、友衣さん」
必死に呼びかければ術が解けて以前の彼女に戻ってくれるような気がして、俺は思わず細い肩に手を伸ばす。
しかし、その手は乱暴に冷たく振り払われた。
そんな細い体のどこにそんな力があるのかと思うような勢いで。
間違っても暴力的な振る舞いはしない彼女とはまるで別人である。
「っ!」
「もう一度言っておきます。私のことなんて気にしないで下さい」
聞いたこともないような低い声が体を槍のように貫く。
「ですが」
「左近様に私の気持ちなんてわかりません。知られたくもないです」
「あんた…」
「嫌いな人に触られたくもありませんから」
そう言い捨て、彼女は部屋を出ていってしまった。
代わりに藤吾と何か話していることが多い。
本当に俺より藤吾を好きになってしまったのか。
そりゃあいつは涼しげな顔立ちをしているし、俺と違ってまだ若い。
だが、引っかかる。
あいつと話している時の友衣さんの顔は、どう見ても楽しそうではなかった。
俺の前ではたくさんの笑顔を見せてくれた彼女とはとても同一人物には思えないほど、友衣さんの表情はまるで今にも雨が降り出しそうな空のようにいつも暗く雲っているのだ。
そう思った瞬間、俺は二人に近付き、強引に友衣さんの衣の袖を引いていた。
「ちょっと友衣さんをお借りしますよ」
困惑した表情の彼女を誰もいない部屋に連れていく。
「藤吾を愛しているんですか?」
「…」
聞いてみても困惑した表情は変わらない。
「友衣さん。ちゃんと話してくれないと、わかりませんよ」
「左近様。もう私に構わないで下さい」
「だったらどうしてそんな悲しい顔をするんです」
友衣さんは悲痛な面持ちになっていた。
「ねぇ、友衣さ…」
「黙って下さい!」
突如、空気をも引き裂くような鋭い声に遮られる。
「私は、私は」
「?」
「私は左近様じゃない、藤吾さんが好きなんです」
「しかし」
「嫌いです。左近様なんて」
「…!」
はっきりと言葉にされて、頭を殴られた心地だった。
「そうやって、寂しい嘘をつくんですね」
締めつけられるようにギリギリと痛む心を無理に隠して言う。
「嘘なんかじゃありません」
「そんな悲しい顔、あんたには似合いませんよ」
だってあんたはいつも、ころころ目まぐるしく表情を変える感情豊かな人だ。
こんな暗い顔ばかりしているなんておかしい。
「あなたに私の何がわかるんですか?」
「あんたのすべてを知っているとは言わない。だがあんたが今、無理しているってことは少なくともわかります」
すると彼女の顔色がサッと変わった。
深く、暗く、奈落のように。
「それは間違いです。やはりあなたは何もわかってない」
そう言って、あの優しい友衣さんとはとても思えないような残忍な笑みを浮かべていた。
「どうしてしまったんです、友衣さん」
必死に呼びかければ術が解けて以前の彼女に戻ってくれるような気がして、俺は思わず細い肩に手を伸ばす。
しかし、その手は乱暴に冷たく振り払われた。
そんな細い体のどこにそんな力があるのかと思うような勢いで。
間違っても暴力的な振る舞いはしない彼女とはまるで別人である。
「っ!」
「もう一度言っておきます。私のことなんて気にしないで下さい」
聞いたこともないような低い声が体を槍のように貫く。
「ですが」
「左近様に私の気持ちなんてわかりません。知られたくもないです」
「あんた…」
「嫌いな人に触られたくもありませんから」
そう言い捨て、彼女は部屋を出ていってしまった。