情炎の焔~危険な戦国軍師~
その日は、それからどうしたか覚えていない。


気付いたら空が暮れなずんでいて、さらにいつのまにか朝を迎えており、そしてふらふらと廊下を歩いていたのだ。


ただ、ただ、彼女のことを考えていた。


自分だけのものだったはずが、今はもう…。


悔しさ、喪失感など心に渦巻く感情は多々あるが、何より俺の胸には嫉妬の炎が燃えていた。


(…あ)


気付けば彼女の部屋まで来ていた。


襖は開いていて、室内には友衣さんだけが座っている。


視線がばちりとぶつかった。


嫌そうな顔はしない。


ただ、戸惑いの色だけがありありと浮かんでいる。


本当に彼女は藤吾に抱かれたというのか?


ふいに藤吾の勝ち誇ったような顔を思い出す。


白く滑らかな柔肌に触れて。


壊れてしまいそうに細く華奢な身体を抱いて。


褥の上だけで出す、あの甘く溶けてしまいそうな声を聞いていたというのか。


彼女が俺ではない、他の男の腕の中で乱れるなんて。


身体を許したのが、よりにもよってあんな男だなんて。


考えただけで嫉妬に狂いそうだった。


「あの」


急にかけられた声につられて顔を見たら、余計にそんな思いに駆られた。


何もかも忘れて、思わず木の枝のように折れそうなほっそりした手首を掴む。


その時、心の臓が跳ねた気がした。


まるで陶器のように滑(すべ)っこく、それでいて弾むような若々しい肌に改めて心が激しく揺さぶられる。


「友衣さん…」


白く滑らかな柔肌に触れて。


壊れてしまいそうに細く華奢な身体を抱いて。


「あ…っ!?」


褥の上だけで出す、あの甘く溶けてしまいそうな声を聞いて…。


「左近、様」


気付くと彼女は俺の下に横たわっていた。


その時、嫉妬のあまり彼女を押し倒していたことに気付く。


「…すみません」


スッと離れる。


もうかける言葉も見つからず、彼女の、悲しみにも困惑にも見える顔を背にその場を去った。


そのまま風のような早足で廊下を歩いていても、一瞬だけ感じた彼女の身体の温かさが胸を掻き乱す。


本当はその小さな身体をずっと抱きしめていたかった。


あの日のように俺だけのものだと言いたかった。


「すみません、友衣さん」


これほどまでに、未練たらしい男で。
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