情炎の焔~危険な戦国軍師~
-サイド左近-


「兼続から文が届いた」


石田邸に呼ばれ、通された間に座るなり殿がそう切り出した。


兼続とは上杉家の直江山城守兼続のことだ。


学問を好み、亡き謙信公の義の教えを守る、情に厚い男である。


「徳川の問罪使をまたもはねのけたそうだ」


上杉家には謀反の疑いがかけられている。


だが、上杉家はあくまでも強気な態度を貫いていた。


「…」


部屋の隅で控えている友衣さんの表情が強張る。


それには気付かず殿は続けた。


「お前達の策を実行する時も近い」


実は数日前、俺は奥州の上杉家を訪ねていた。


そこで上杉景勝殿や兼続殿に会い、謀反の疑いやこれからのことについて話し合ってきたのである。


家康は近々、上杉家に腹を立てて奥州征伐に向かうだろう。


伏見、大坂ががら空きになるその時がまたとない好機。


北の上杉、そして南の俺達で徳川を挟み撃ちにする。


それが作戦だ。


しかし狸と呼ばれているあの家康がまんまと引っかかってくれるかどうかはわからない。


一見、引っかかったように見せかけて、実はさらに大それた作戦を練っていないとも限らない。


それは殿には進言した。


しかし


「だが、やるしかない」


とだけ言われた。


確かに事態が動き出した今、ここまでくれば腹を決めるしかないかもしれない。


もうすぐ戦が始まるだろう。


その時、大切な人達を守れるのだろうか。


覚悟のようなものを決めながら、俺は目の前の澄ました主人の顔と、部屋の隅にいる侍女の1人の顔をこっそり見た。
< 43 / 463 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop