情炎の焔~危険な戦国軍師~
そのまま深く眠ってしまったらしい。


気付くとすでに外は明るくなってきていた。


体が温かい。


熱とは明らかに違う、穏やかな温かさ。


こんな優しい温もり、久しぶりだ。


なぜだろう。


幸せな夢を見たせいか?


ふと見ると、俺を抱きかかえるようにして友衣さんが眠っている。


まだ夢を見ているのかと錯覚したが、違う。


そっと髪を撫でると、しっかりと存在を感じた。


柔らかい髪の感触。


ほんのりした香り。


紛れもなく現実なのだ。


「友衣、さん?」


この華奢な体を以前のように抱きしめていいのか?


「左近様…」


そう呟いて彼女はうっすら目を開く。


「あっ…!」


俺の姿を認めるなり、いきなり飛び上がるように体を起こした。


「別に、左近様が心配で来てそのまま寝てしまったとかじゃありませんから」


聞いてもいないのにそんなことを言っている。


「ですが、理由もなく嫌いな奴と一緒に眠るあんたとは思えませんが」


その思いと、彼女が言葉と裏腹に添い寝していたという眩しい事実が、俺を少し強くした。


「私のことなんてもう構わないで下さい」


ふいと顔を背けられたが、嫌いだからというより心を探られたくないからに見える。


友衣さん。


あんたはもしかして、俺のことをまだ…?


「友衣さん、あんたは一体俺に何を隠してるんです?」


「もう黙って下さい。これ以上干渉するならその時は…」


彼女は否定せずに、言葉を無理に遮っていきなり部屋にあった槍を掴む。


「その時は、あなたを刺します」


切っ先が鈍く光り、俺の首筋に迫った。


「何やってるんですか、落ち着いて下さい」


その時には意外と冷静に、確信に近いものを感じていた。


彼女は大きな何かを抱えているに違いない。


窮地になると、いつも極端な行動に出るからだ。


かつて血迷って佐和山城へ行った殿を、夜なのに単騎で追いかけたり。


関ヶ原で俺が死んだと思って、敵に斬られるくらいならと自刃しようとしたり。


敗戦して落ち延びた殿を探しに行ったりするほどに。


逆に言えば、窮地にならなければこんなこと絶対にしない。


何かを隠したくて必死になっているのだろう。


そうでなければ、これまでのように否定して冷たくあしらえば済んでしまうことなのだから。


「あんたに俺が刺せますか」


「私は本気です」


「では、刺すなら刺して下さい」


そう言って俺はまっすぐな視線で彼女を射抜いた。
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