情炎の焔~危険な戦国軍師~
第56戦 失えないもの
-サイド友衣-


話はバレンタインの翌日に遡(さかのぼ)る。


左近様に気持ちを伝えて繋がった朝。


目を開くと、彼は私を抱き枕のようにして寝息を立てていた。


優しい温もりで全身がくるまれている。


私はさらに体を縮め、広い胸に顔を埋めるようにして目を閉じた。


聞こえてくる鼓動も、寝息も、その度に動く大きな体も、すべてが温かい。


こうして最愛の人の腕の中で眠るのが、何より幸せを感じる…。


そのまま眠ったらしい。


再び目を覚ますと、左近様はいなくなっていた。


誰かに呼ばれて行っちゃったのかな。


一抹の寂しさに襲われて胸がキュッとなる。


「友衣」


藤吾さんがやって来た。


「どうしました?」


するといきなり手を取られる。


「?!」


「僕、出会った時から友衣が好きだったんだ」


「え、やだなあ、変な冗談言わないで下さいよ」


「本当だよ」


ぐいっと体を引かれて、視線がバチッと衝突した。


「やめて下さいって」


「冗談でこんなこと、言わない」


私の自由を奪う手をほどこうとするが、力が強くてびくともしない。


「何言ってるんですか。知ってるでしょう?私は、あなたのものになることはありません」


だって私には愛する人が…。


すると藤吾さんの目が鷹のように鋭く光った。


「僕のものにならなければ、左近殿の命を頂戴する」
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