情炎の焔~危険な戦国軍師~
その後、左近様が力ない足取りで去っていくのを見届けた私は、しばらく廊下でひとり立ち尽くしていた。


「左近様、ごめんなさい…」


別れて下さい、だなんて言う日が来るなんて思わなかった。


思いたくもなかった。


現実すら受け入れたくなかった。


「本当は私、左近様と一緒にいたいです」


別れて下さいと言った時の、彼の現実を受け入れられないような傷付いた顔。


苦しめたくない。


だけど死なせたくもない。


左近様の隣に行きたいけど、きっとその感情に身を任せたら…。


頭の中に関ヶ原でのことが蘇る。


もう、嫌だ。


大切な人を失うなんて耐えられない。


つらさで胸を押さえていると、藤吾さんがやって来た。


それを見た私は思わずつかみかかるような勢いで叫んでいた。


「ひどいです。あんまりです。冗談みたいなこと言って左近様と別れさせようとして何がしたいんですか!」


「冗談で」


いきなり肩を引かれ、抱き寄せられる。


「こんなこと、言わないよ」


「あの、放し…」


て下さい、の5文字は出なかった。


藤吾さんの肩越しに左近様がいたことに気付いたからだ。


どくり、と心臓が鳴る。


「ハッ」


彼は私達を見て、今までに見たこともないくらい残忍な顔で笑った。


まるで私を蔑むかのように。


「そういう、ことですかい」


嘲笑うように吐き捨て、左近様は大股で足早に去っていってしまった。


「違っ…」


藤吾さんから離れ、手を伸ばしても届くことはなかった。


追いかけてちゃんと話したい。


でも話したら彼とはずっと会えなくなる。


だから私はただ広い背中を見送るしかなかった。


そのまま空っぽな心でぼんやり考え事をしていた。


藤吾さんの話に相づちを打ちながらも、内容はさっぱり頭の中に入っていない。


そうしていた時、私を現実に引き戻してくれる声が飛び込んできた。
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