情炎の焔~危険な戦国軍師~
「ちょっと友衣さんをお借りしますよ」


突然左近様が現れ、誰もいない部屋に連れていかれる。


私は戸惑いながらも少し嬉しく感じた。


藤吾さんに抱きしめられている所を見たのに、わざわざ戻ってきてくれたんだ。


「藤吾を愛しているんですか?」


いきなりそう聞かれる。


「…」


違う。


でも否定するわけにはいかない。


ぶんぶんと首を横に振りたい気持ちを頑張って抑える。


「友衣さん。ちゃんと話してくれないと、わかりませんよ」


「左近様。もう私に構わないで下さい」


あなたの声を聞く度に、気持ちが揺らいでしまう。


「だったらどうしてそんな悲しい顔をするんです」


やめて。


顔どころか心まで覗き込まないで。


「ねぇ、友衣さ…」


「黙って下さい!」


大声を出して、無理やり言葉を途切れさせる。


「私は、私は」


「?」


「私は左近様じゃない、藤吾さんが好きなんです」


心が違うと叫んでいるけど、目をつぶってそう言う。


「しかし」


「嫌いです。左近様なんて」


「…!」


苦しい。


心がズキズキ痛む。


「そうやって、寂しい嘘をつくんですね」


「嘘なんかじゃありません」


お願い、嘘を見抜かないで。


「そんな悲しい顔、あんたには似合いませんよ」


優しくしないで。


「あなたに私の何がわかるんですか?」


「あんたのすべてを知っているとは言わない。だがあんたが今、無理しているってことは少なくともわかります」


嬉しかった。


否定してもやっぱり左近様は私のこと、分かってくれているんだ。


でも、突き放さなきゃ。


「それは間違いです。やはりあなたは何もわかってない」


わざと冷たく笑ってみせる。


「どうしてしまったんです、友衣さん」


左近様の手が伸びてくる。


本当はその手に、腕に包まれて優しさに溺れたい。


触れられたい。


でも、手を乱暴に振り払った。


「っ!」


「もう一度言っておきます。私のことなんて気にしないで下さい」


「ですが」


「左近様に私の気持ちなんてわかりません。知られたくもないです」


「あんた…」


「嫌いな人に触られたくもありませんから」


顔も見ずに早口でそう言い、私は部屋を出ていった。
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