情炎の焔~危険な戦国軍師~
「もう、いいです」


「?」


「だいたい、俺はあんたが好きなわけじゃない。未来から来たのが珍しいっていう好奇心からあんたに近付いたんです」


心臓がずくり、と刺されたように痛んだ。


本当に好きな人の口からこんな言葉を聞くことになるなんて。


「知らなかった。左近様ってそんなこと言う人なんですね」


許されるなら、泣きたかった。


左近様の心は、私の元にはなくなってしまったんだ。


「あっ、そーですか。私だってそうですよ。生きざまがカッコいい戦国武将だったら誰でも良かったんです」


本心を見せないように必死にこらえながら振る舞う。


「私に構わないで下さい。左近様なんて嫌いなんですから」


これでいいはずなのに。


こうなるって分かってたはずなのに。


「っ…」


涙が溢れる前に、走って部屋を出ていった。


まだ泣いちゃダメだ。


もっと人気のない場所で泣かなきゃ。


「あんたは」


後ろから左近様の声が追いかけてきて、足が止まった。


「あんな奴に抱かれて幸せですか?」


抱かれて?


分からないまま振り向く。


「楽しそうな顔なんて全然していないのに、あんな奴とひと月もしないうちに褥を共にして。それであんたは幸せなんですか?」


何を言っているの?


確かに押し倒されはしたけど、それ以上は拒否した。


だって私が本当に愛されたいのは…。


逸(はや)る気持ちを抑えて、問いを投げかけてきた人の目を見る。


そして微笑んだ。


左近様。


「幸せですよ」


ごめんなさい。
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