情炎の焔~危険な戦国軍師~
影月さんの刀が藤吾さんの左腕を捉えた。


「幸村様を裏切ったお前を許すわけにはいきません」


そしてすかさず銀に光り輝く切っ先が脇腹を走る。


「無論、家康の元に帰すことも」


「くうっ」


怒りの炎が燃えているように見える影月さんと、苦しげな藤吾さん。


「終わりだ」


影月さんが飛苦無(とびくない)を何本も矢のように放った。


(あっ…!)


その攻撃をよけきれずに胸に受けた藤吾さんはバランスを崩してよろめき、体が大きく傾いた。


その足元に、足場はない。


「ここまで…かな」


そんな声が聞こえた気がした。


顔がこちらを向く。


そのどこか悲しげな目は幸村様を見ているように思えた。


彼はそのまま4階くらいの高さから地上に落ちていった。


城の向こうへ落ちたので姿は分からないが、あれだけの傷を受けている以上、きっと助からないだろう。


「藤吾…」


がくりと膝をつく幸村様。


「なりませぬ、幸村様。彼は徳川の間者だったのです。こちらの敵だったのです。もしかしたらご自身のお命も危なかったのかもしれないのですよ?」


影月さんがいつのまにか戻ってきて何の感情もなく言う。


「そう…だな」


まだどこか虚ろな目で頷くその姿は痛ましい他なかった。


「左近殿、友衣殿。うちの忍が迷惑をかけてすまなかった。某は秀頼様の元へ行ってくる。影月、藤吾を頼めるか?」


影月さんの返事も聞かないうちに幸村様は青白い顔で抜け殻のように中へ入っていく。


「ここは任せて、俺達も戻りましょう」


左近様に促され、私はどこか空っぽな気持ちで部屋に向かった。
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