情炎の焔~危険な戦国軍師~
-サイド左近-


あの後、藤吾の死が明らかになって友衣さんと俺は部屋に戻ってきた。


藤吾は、今考えればだいぶおかしいことをしていたように思う。


あいつだって忍だ。


俺が先ほどあいつの腕をひねり上げた時、そんな簡単に友衣さんを奪わせるなんて考えられない。


その他にも迂闊な部分が多すぎる。


影月とやり合った時も逃げるとか、身代わりを用意するとかしてもおかしくなかったのにそうせず簡単に死んでいった。


彼は何かを隠していたのか?


忍に感情はいらない。


だが、友衣さんに出会ったことで心が掻き乱されて持ってはいけない感情を抱いたあいつは忍でいられなくなった。


だから無理やりにでも友衣さんを手に入れた後、何らかの形でそんな状況から脱出しようとしたのか…?


「忍だって人の子だ。禁断の花を奪いたくなりますよ。影が光と交わりたくなりますよ」


いつかあいつはそう言っていた。


その花や光がまさか友衣さんをさしているなんて、その時は思いもしなかったが。


「あの、もし私がこの時代に来なければ、藤吾さんは死なずに済んだんですかね。普通の忍として生きられたんですかね」


ふいに友衣さんが考えを遮るように呟く。


「滅多なことを言うもんじゃありません」


「ですが、私がいなければこんな騒ぎは起きなかったのでは」


「藤吾は自分の意思でこんな結末になった。もしあんたが来たことであいつが忍でいられなくなったんだとしたら、それはあいつ自身の心の弱さが招いたことです」


「心の弱さ…」


「だから気にしてはいけない。かわいそうだとか、自分のせいだとか思ってはいけないんです」


「すみません。私、もしかしたら1人の人生を狂わせてしまったのかもって思ってしまって」


あんなにひどい目にあわされたというのに、相変わらず彼女は優しい。


「時に恋心は、人を人でなくしてしまう。想いが制御出来なかったり、独りよがりな感情を愛と履き違えてしまったりすると、最終的に誰かが傷付くことになる」


友衣さんは黙って頷いた。


「だが、あんたを好きになって一緒にいたから俺はここまで生きて来れた。だから、もしここに来なかったらなんて考えないで下さい」


「分かりました。ごめんなさい、左近様」


「友衣さん。俺、本当は、ってさっき言いかけましたよね」


「はい」


「その続き、言います」


「…」


先を促す沈黙を確認して俺は話し始めた。
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