情炎の焔~危険な戦国軍師~
-サイド幸村-


藤吾が死んだ。


なんと彼は徳川の間者だったという。


徳川との関係が緊張している最中にこのような事件が起きて、某は混乱を隠せなかった。


「藤吾…」


いつから裏切られていたのだろう。


まさか、最初から?


「お前を信じて生きてきた日々はすべて偽りだったというのか?」


そうだとは思いたくなかった。


「幸村様」


ふいに影月が現れる。


「藤吾のこと、悲しんではなりませぬ」


「だが」


「友衣殿を理不尽な理由で殺そうとしたのです。しかも徳川の間者だった。ずっと私達を欺いていたのですよ」


「影月…」


「彼に情けなど無用です」


そう言い放つ彼は人形のように表情ひとつ変えない。


「強いな、影月は。某もそのように容赦なく割り切れれば良いのだが」


藤吾とは父上が亡くなった頃に出会った。


行き倒れになっていた所を助けたのである。


そして抜け忍であることが分かり、自分の忍として迎え入れることにしたのだ。


しかし、本当は抜け忍などではなく徳川の忍だった。


「もう…誰を信じれば…」


「幸村様。そのようなことでうろたえるなど、あなたらしくもない」


「情けないことだ。この乱世を生き抜く中で、某もそれなりにあまたの悲しみを乗り越えてきたつもりだ。なのに忍ひとりの裏切りで動揺を隠せぬとは」


「幸村様は優しすぎるのです。そこが短所でもあり、長所でもある。徳川は恐らく、次の戦あたりで決着をつけるでしょう。完全なる徳川の天下を作るために」


「徳川の、天下…」


影月の言う通り、きっと家康殿は豊臣を本気で潰すだろう。


「幸村様は豊臣の要。豊臣の存亡はあなたにかかっているのです。ゆめゆめそのことをお忘れなきよう」


「うむ」


某は果たして守りきれるだろうか。


豊臣を、そして大切な人々を。
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