情炎の焔~危険な戦国軍師~
「桜が、咲いてますね」


いきなりそんなことを言う。


振り向くと、山桜が薄桃色の花をつけ始めている。


「綺麗ですね」


正直な感想を言うと、彼は切なげな表情を浮かべた。


「桜も花火も俺からしてみれば同じです。咲いたと思えばすぐ散ってしまう。儚いですよね。まるで俺達武士の命のようだ」


「そんなこと言わないで下さい」


「諸行無常、盛者必衰、とはよく言ったものですよね。花も人も永遠に同じ場所にはいられない」


「もう黙って下さい。黙らないならその口を縫い付けますよ」


つらかった。


いつも余裕な左近様が、鬱々とした顔でいるのが。


すると彼は驚いた表情の後、かすかに微笑んだ。


「そんなに口をふさぎたいのなら、違う方法でやってくれた方がいいんですがね」


そして顎を軽く持ち上げられた。


「ち、ちょっと!」


私は慌てて後ずさりする。


その様子を見た左近様は笑い出した。


「ははは。相変わらずの恥ずかしがりようだ」


その咲いた笑顔を見て私の口元もほころんだ。


「良かったです」


「え?」


「いつもの左近様に戻りましたね」


「あんた、まさか俺を元気付けようとして?」


「あ、いえ」


こんな展開になったのは偶然だし。


しかし、左近様はふっと笑って言った。


「ありがとう」
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