情炎の焔~危険な戦国軍師~
第58戦 三成を思う-亡き友へ-
ある日、私が左近様の部屋へお邪魔すると、彼は琵琶を奏でていた。
「三成様…」
以前、お寺で琵琶の音に乗せて三成様の歌を歌っていた時のことを思い出す。
だからであろう、思わず三成様の名前を呟いた。
ぴたりと琵琶の音が止まる。
「本当に思い出します、殿を」
左近様は遠くを見るような目をした。
「三成様はどう思ってるんでしょうね。私達が豊臣を守るために、こうして再び戦に身を投じようとしていることを」
ふいにそんな疑問が浮かんだ。
「うーん、難しい質問だ」
彼は腕組みして少し首を傾ける。
「あの方の遺志を継いで俺達が豊臣の味方になることを決意したのは喜んでいるかもしれない。だが、あの方は優しい。それ以上に、戦で傷付いてほしくないと願っているんじゃないですか?」
「そうですかね」
「正直、豊臣の世がそう長く続くとは思えない」
「えっ」
歴史を見透かされた気になってドキッとする。
「今じゃ大多数の諸大名が家康に味方しているようですよ?時の流れは豊臣より徳川にあるってね。ま、こちらも牢人を大量に集めていますが、どこまでもつか」
その顔は確かに軍師の顔であった。
「ましてや、天下の大坂城がこのザマですからね」
彼は部屋を出て上の階に行き、廊下から城下を見下ろす。
私もそれに倣(なら)う。
大坂冬の陣で、徳川軍を苦しめた大坂城をぐるりと囲む堀があったようだが、今はすっかり埋め立てられて見る影もない。
冬の陣の後、豊臣と徳川が講和することになったのだが徳川方が「講和するなら堀も必要ないだろう」とさっさと埋め立ててしまったのである。
しかも、二の丸と三の丸まで壊されてしまったらしい。
家康殿の余命があまりないと踏んで、時間をかけてゆっくり埋め立てようとしていた豊臣の人々は苛立ちと焦燥を隠せなかったが、従う他なかったとのことであった。
あ、三成様といえばずっと気になっていたことがあったんだ。
「私がこの世界に迷い込んだ直後のことなんですけど」
私は唐突に切り出した。
「今でも謎です。なんであんな寂しい林みたいな辺鄙(へんぴ)な所に三成様がやって来たのか。私とちょっと会話してすぐお城へって感じだったので、何か別の目的があって来たわけでもなさそうですし」
実に都合良く現れたので、不思議でならない。
すると左近様は猫のように目を細めた。
「三成様…」
以前、お寺で琵琶の音に乗せて三成様の歌を歌っていた時のことを思い出す。
だからであろう、思わず三成様の名前を呟いた。
ぴたりと琵琶の音が止まる。
「本当に思い出します、殿を」
左近様は遠くを見るような目をした。
「三成様はどう思ってるんでしょうね。私達が豊臣を守るために、こうして再び戦に身を投じようとしていることを」
ふいにそんな疑問が浮かんだ。
「うーん、難しい質問だ」
彼は腕組みして少し首を傾ける。
「あの方の遺志を継いで俺達が豊臣の味方になることを決意したのは喜んでいるかもしれない。だが、あの方は優しい。それ以上に、戦で傷付いてほしくないと願っているんじゃないですか?」
「そうですかね」
「正直、豊臣の世がそう長く続くとは思えない」
「えっ」
歴史を見透かされた気になってドキッとする。
「今じゃ大多数の諸大名が家康に味方しているようですよ?時の流れは豊臣より徳川にあるってね。ま、こちらも牢人を大量に集めていますが、どこまでもつか」
その顔は確かに軍師の顔であった。
「ましてや、天下の大坂城がこのザマですからね」
彼は部屋を出て上の階に行き、廊下から城下を見下ろす。
私もそれに倣(なら)う。
大坂冬の陣で、徳川軍を苦しめた大坂城をぐるりと囲む堀があったようだが、今はすっかり埋め立てられて見る影もない。
冬の陣の後、豊臣と徳川が講和することになったのだが徳川方が「講和するなら堀も必要ないだろう」とさっさと埋め立ててしまったのである。
しかも、二の丸と三の丸まで壊されてしまったらしい。
家康殿の余命があまりないと踏んで、時間をかけてゆっくり埋め立てようとしていた豊臣の人々は苛立ちと焦燥を隠せなかったが、従う他なかったとのことであった。
あ、三成様といえばずっと気になっていたことがあったんだ。
「私がこの世界に迷い込んだ直後のことなんですけど」
私は唐突に切り出した。
「今でも謎です。なんであんな寂しい林みたいな辺鄙(へんぴ)な所に三成様がやって来たのか。私とちょっと会話してすぐお城へって感じだったので、何か別の目的があって来たわけでもなさそうですし」
実に都合良く現れたので、不思議でならない。
すると左近様は猫のように目を細めた。