情炎の焔~危険な戦国軍師~
「これじゃいけませんよね」


その声は悲しみながらも一歩足を踏み出すような力強さを持っていた。


「と、言うと?」


私は驚きながら促す。


「殿を思うが故の悲しみだが、きっとあの方は俺達が悲しむことがつらいと思うんです。優しい方でしたから」


「左近様…。そうですよね、三成様のことはいつでも忘れません。だけど、私達が悲しんでばかりじゃ三成様だって悲しいですよね」


そうだ。


あの人のことは大事だけどひたすら悲しみに浸るんじゃない。


前を、向かなきゃ。


「そうじゃな。2人ともすまぬ、私ともあろう者がつい弱音を吐いてしまった。そなたらなら何も言わずに聞いてくれると思ってな」


淀の方様はうっすら微笑んでいる。


「友衣よ」


「はい」


「そなたは女子の身でありながら、三成を守るために兵に志願した。そして今も豊臣のために真田の元で戦おうとしてくれておる」


そう言う顔はいつもの凛と澄んだ表情に戻っていた。


「三成が認めた者じゃからな、期待しておる。左近も友衣をしっかり守ってやるのじゃぞ」


その言葉に私達は深々と頭を下げた。


「長話に付き合わせてしまって悪かったな」


「いえ、あのお方も嬉しいんじゃないでしょうか。亡き今もこんなに思ってくれる人がいるんですから。それってすごく幸せなことだと思います」


「ふふ、その前向きさ、三成が良い女子だと申していただけあるな」


「えっ」


三成様がそんなことを‍?


「そういえば、友衣に渡したいものがある」


淀の方様はそう言って何かを取り出した。
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