情炎の焔~危険な戦国軍師~
-サイド左近-
淀殿が戻っていった後、俺は切なげに扇を抱きしめたままの友衣さんに言った。
「友衣さん、昨日は思い違いでしょうと言って口をつぐみましたが、殿のためにも言います。殿はあんたを大切に思っていました。それも、女として見るほどに」
「わ、私を異性としてだなんて…」
「新鮮だったんでしょう。慎ましい女性ばかりの中であんなに喜び、あんなに泣き、あんなに必死で戦事に意見しようとした女が」
「私は確かに慎ましくなかったです。相手は主なのに色々口出ししたし、出しゃばった真似をしたかもしれません」
「そして何より嬉しかったんでしょう。等身大で、本気でぶつかってくるあんたの存在が」
そう言いながら頭の中では関ヶ原の戦いの前、笹尾山に着陣して友衣さんが眠りについた時にした殿との会話を思い出していた。
「左近よ」
「何です?」
「戦前に言うのも何なんだが、友衣は兵士としているべきじゃなかったのかもしれない」
「後悔しているんですか?彼女を兵として迎え入れたことを」
「ただの侍女として置いておけばこの戦に巻き込むこともなかった。この戦い、今までより大きく激しいものになる気がしてならぬ。オレ自身どうなるか…」
珍しく弱音である。
「ま、兵として殿をお守りしたいと希望したのは友衣さん自身ですがね」
「お前は心配ではないのか?」
「心配じゃないわけないでしょう。だが、伏見城でも頑張ってくれましたし、何より彼女を信じてますから」
「左近は強いな。オレらしくないのだが、こいつに何かあったらと思うと不安でならぬ」
殿は俺の隣で眠っている友衣さんに視線を落とす。
いつになく苦しげで切なそうな目だった。
「殿、前から薄々感じていましたがあなたはもしかして友衣さんを」
「言うな、左近」
遮断するような言い方だが、その声は少しだけ優しく聞こえた。
「友衣にはお前がいる。前にも言ったが、お前だから安心なのだよ」
「殿…」
「オレとしたことが、これから大戦をやろうというのに。そもそもオレには妻や華がいるというのにこんな気持ちになっている場合では」
「以前からその兆候はありましたがね」
「何?」
「お気付きでなかったんですね。無意識に気付かないふりをしていらしたのかもしれませんが」
俺がそう言った時の、殿のわずかに赤く染まった驚いた顔。
「オレは何を考えている」
いつかの月が綺麗な夜、眠った友衣さんを前にして殿が呟いた言葉。
あの時の珍しく熱を帯びた声を今でも覚えている。
淀殿が戻っていった後、俺は切なげに扇を抱きしめたままの友衣さんに言った。
「友衣さん、昨日は思い違いでしょうと言って口をつぐみましたが、殿のためにも言います。殿はあんたを大切に思っていました。それも、女として見るほどに」
「わ、私を異性としてだなんて…」
「新鮮だったんでしょう。慎ましい女性ばかりの中であんなに喜び、あんなに泣き、あんなに必死で戦事に意見しようとした女が」
「私は確かに慎ましくなかったです。相手は主なのに色々口出ししたし、出しゃばった真似をしたかもしれません」
「そして何より嬉しかったんでしょう。等身大で、本気でぶつかってくるあんたの存在が」
そう言いながら頭の中では関ヶ原の戦いの前、笹尾山に着陣して友衣さんが眠りについた時にした殿との会話を思い出していた。
「左近よ」
「何です?」
「戦前に言うのも何なんだが、友衣は兵士としているべきじゃなかったのかもしれない」
「後悔しているんですか?彼女を兵として迎え入れたことを」
「ただの侍女として置いておけばこの戦に巻き込むこともなかった。この戦い、今までより大きく激しいものになる気がしてならぬ。オレ自身どうなるか…」
珍しく弱音である。
「ま、兵として殿をお守りしたいと希望したのは友衣さん自身ですがね」
「お前は心配ではないのか?」
「心配じゃないわけないでしょう。だが、伏見城でも頑張ってくれましたし、何より彼女を信じてますから」
「左近は強いな。オレらしくないのだが、こいつに何かあったらと思うと不安でならぬ」
殿は俺の隣で眠っている友衣さんに視線を落とす。
いつになく苦しげで切なそうな目だった。
「殿、前から薄々感じていましたがあなたはもしかして友衣さんを」
「言うな、左近」
遮断するような言い方だが、その声は少しだけ優しく聞こえた。
「友衣にはお前がいる。前にも言ったが、お前だから安心なのだよ」
「殿…」
「オレとしたことが、これから大戦をやろうというのに。そもそもオレには妻や華がいるというのにこんな気持ちになっている場合では」
「以前からその兆候はありましたがね」
「何?」
「お気付きでなかったんですね。無意識に気付かないふりをしていらしたのかもしれませんが」
俺がそう言った時の、殿のわずかに赤く染まった驚いた顔。
「オレは何を考えている」
いつかの月が綺麗な夜、眠った友衣さんを前にして殿が呟いた言葉。
あの時の珍しく熱を帯びた声を今でも覚えている。