情炎の焔~危険な戦国軍師~
いつのまにか部屋の入口に立っていた彼女の存在に気付いて名前を呼ぶと、友衣さんは寂しそうに下を向いてしまった。


俺はため息まじりに心の中で呟く。


(この娘さんを手なずけるのは、なかなか大変ですな)


なぜ俺はこんなことを考えているのだろう。


他にも女なんてたくさんいるし、彼女のように突き放したりしない女だって大勢いるのに。


(誑しの左近でもわからない女、か。ふっ、上等だ)


からかうと顔を真っ赤にして怒る。


それは怒りより恥ずかしさで赤面していることは知っている。


わかりやすい人だ。


そんなところが可愛い。


もっと意地悪したくなる。


しかし、彼女のことが気になるのはやはりそれだけではない気がした。


彼女は俺に秋波を送って来るような女達とは何かが違う。


あのように怒りや悲しみといった否定的な感情も素直に見せる女なんてなかなかいない。


だからだろうか、とても新鮮に感じる。


慌ただしく変わる表情をもっと見ていたい。


ふとした瞬間に咲く笑顔を守りたい。


そんな誑しの左近らしからぬことを考えてしまう。


俺はあんたのことが気になって仕方ない。


一緒に城下町へ行った時、帰り道でついそう言おうとしてしまったのももしかすると…。


「あなたは嘘が下手なのですね。恋する男の顔をしていらっしゃいますよ」


以前、葵に言われた言葉が蘇る。


(恋、か)


俺らしくないと思いながらもどこか納得してしまう自分がいた。
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